第141話 夜襲

「……来たぞ、気を付けろ」



木陰から様子を伺っていたリルが全員に声を掛けると、遂にホブゴブリンとファングが姿を現す。運が良い事に先ほどまでは2匹同士で巡回していたのに対して今回は1匹ずつ姿を現した。


数が少なければレイナ一人でも対処できる可能性があり、彼は音を立てずに風下の方から移動を行う。そして上手くホブゴブリンとファングの背後に回り込むと、アスカロンを引き抜く。



(大丈夫だ、昼間の時のようにやればいける……問題ない)



心の中で不安を抑えるように自分に言い聞かせると、覚悟を決めたレイナは背後から接近してアスカロンを振りぬく。まずは背中側からホブゴブリンの胴体を貫き、確実に仕留める。



「グギャアッ……!?」

「ガアッ!?」

「ふんっ!!」



隣を歩いていたファングが驚愕の声を上げるが、続けてレイナはフラガラッハを引き抜いてファングの頭上に振りぬく。血飛沫が舞い上がり、ファングの頭部が切り裂かれるとホブゴブリンとファングの死体が地面に横たわる。それを確認したリル達が急いで向かう。



「よし、見事な手腕だ。流石はレイナ君だな」

「ふうっ……大分、戦闘も慣れてきました」

「よし、じゃあすぐに死体を運び込むぞ」



ホブゴブリンとファングの死体をリル達は急いで木陰の方に運び込み、簡単に見つからないように隠す。死体を隠しておけば他のホブゴブリンに気付かれるのにも時間が掛かり、その間にレイナ達が村の中に忍び込む余裕が出来る。


邪魔者がいなくなったのでレイナ達は壊れかけの木造製の柵を潜り抜けると、村の中に入り込む。ここから先は隠密行動のため、シロとクロは置いて先に進む。万が一に発見された場合を考え、クロミンだけは連れて行く。



「もしも見つかった時は頼りにしてるよクロミン」

「ぷるぷるっ(任せて)」



クロミンが黒竜に変化すれば大抵の魔物は敵ではなく、仮にホブゴブリンが100匹存在しようがクロミンの敵ではない。だが、見つかなければわざわざ貴重な文字変換の能力を使わずに済むため、レイナ達は慎重に村の様子を調べる。


村の中に関してはホブゴブリン達は特に警戒は敷いていないのかあっさりと侵入する事が出来た。どうやらホブゴブリン達は村の中心部の方に新しい住居を建設しているらしく、大量の木材が放置された状態だった。



「フゴォオオッ……」

「ギギィッ」

「グギィッ」



建物の陰に身を隠しながらレイナ達は村の中心部に集まったホブゴブリンの様子を伺うと、地面に絨毯を敷いて身体を休ませる者、訓練を行うかのように素振りを行う者、寝転んで雑談を行う者まで存在した。


こうして見ているとホブゴブリンがどれほど人間に近い生物なのか思い知らされ、レイナは彼らをどうするべきかリルに尋ねるように視線を向ける。リルとしても目の前の状況に困惑し、まさかこんな場所でこれだけのホブゴブリンが生息しているなど思いもしなかった。



「奴等……何者でしょうか?ただの野生の魔物とは思えません」

「ホブゴブリンがいくら頭がいいといっても、おかしいと思う」

「そうだな、魔除けの石に耐性を持つどころか利用している時点でこいつらは普通じゃない……それに奴等の身に着けている装備は間違いなく人間から奪った物だ。放置は出来ないが……流石に数が多いな」



村の中で存在するホブゴブリンは確認するだけでも30匹は超え、これだけの数を相手にするとなるとレイナ達も1匹残さずに倒すのは難しい。クロミンを黒竜に変化させて襲わせるという手もあるが、1匹でも取り逃がすと面倒な事態に陥る。


レイナはホブゴブリンの正体を見抜くため、リル達にどうにかホブゴブリンを殺さずに1匹だけ捕まえる事が出来ないのかを相談する。



「俺の能力を使えばこのホブゴブリン達の正体が分かるかもしれません。どうにか1匹だけでも連れ帰る事は出来ませんか?」

「そうだな……よし、やってみよう」



リルはレイナの言葉に従い、しばらくの間はホブゴブリン達の様子を伺っていると、1匹のホブゴブリンが立ち上がって移動を開始した。どうやらもよおしたのか股間を抑えて走り抜け、そのまま村の中心部から離れた。


レイナ達はそれを見て絶好の好機だと見抜き、ホブゴブリンの後を追う。結果としてはホブゴブリンは村を取り囲む木造製の柵まで移動を行うと、その場で小便を行う。



「ギギィッ……」



魔物といっても生物である事に変わりはないので用を足す事もあるらしく、何が悲しくてこんな夜中に魔物の小便を行う姿を見なければならないのかとレイナは思ったが、やがて用を足したホブゴブリンは元の場所へ戻ろうとした。


しかし、そんなホブゴブリンの背後からこっそりとリルは近付くと、剣を引き抜いて柄の部分をホブゴブリンの首元に叩きつける。その結果、ホブゴブリンは悲鳴を上げる暇もなく意識を奪われ、気絶してしまう。

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