第111話 元の姿へ

――クロミンという心強い仲間を得たレイナ達は牙路を抜け出し、遂に獣人王国の領地内に入った。ここから先は凝った変装の必要もなくなり、堂々とリル達も獣耳と尻尾を露わにして行動が出来る。



「ふうっ……やはり、人間なんかに変装するのは疲れるな。耳と尻尾を隠すだけでも動きにくくなる」

「へえ、チイの尻尾はこんな感じなんだ。改めてみるとネコミンとは違うんだね」

「こ、こら!!じろじろと見るんじゃない!!さ、触ったりしたら許さないからな!!」

「レイナ君、何なら私の触ってみるか?」

「いいんですか?なら遠慮なく……」

「んっ……な、中々の手つきだな。あんっ……」

「獣人族は尻尾が弱い……だから戦闘中は触れられないように気を付けて服の中に隠す人も多い」

「サ〇ヤ人みたいだな……」



リルの尻尾に触れながらレイナは本当に人間に動物のような尻尾が生えている事を思い知らされ、改めてここが異世界だと思い知らされる。その一方でリルの方もレイナに視線を向け、ある事に気付く。



「そういえばレイナ君、もう姿を隠す必要はないのだから元の姿に戻ったらどうだ?」

「え?」

「そうだな、ここはもう獣人王国の領地だ。人の目を気にせず、元に戻れば良い」

「おおっ……遂にレイナもあの姿のまま行動できる」



ヒトノ帝国内に存在した頃は姿を変えて行動する必要があったのは「レア」が指名手配されていたからであり、一時的に性別と年齢を変化させてレアは「レイナ」として過ごしていた。


しかし、獣人王国に辿り着いた以上は姿を変えて行動する理由はなく、リル達としても国王に事情を説明するためにはレイナのままでは困る。



「既に獣人王国でも勇者がヒトノ帝国で召喚されたという話は知っているはずだ。勿論、その内の一人が指名手配されている事もだろう……私達はその指名手配された勇者を救出して連れて来たと報告する必要があるんだ」

「あ、そっか……じゃあ、男に戻ってもいいんですね」

「そういう事だ」



レイナは男に戻って行動できるという言葉に嬉しく思い、今までは女性の姿で怪しまれないように過ごしていたが、その必要もなくなった事に安堵する。


リルの了承を得た後、レイナは文字変換を発動させて性別と年齢を元の状態に変更すると、遂に「レア」の姿に戻った。



「ふうっ……どうですか?元に戻りました」

「ほう、これがレイナ君の元の姿か……正直に言わせてもらうと顔の方はあまり変わっていないな」

「元々可愛らしい顔立ちしてる」

「お前、本当に戻ったのか?確かに髪の毛は短くなったし、胸は小さくなったが……」

「ぷるぷるっ(頷く)」

「そ、そういわれましても……」



性別と年齢を変更した事でレイナは遂に元の姿に戻ったが、顔立ちに関してはあまり大きな変化はなく、元々から女の子のように綺麗な顔立ちをしていたのでリル達に不思議がられる。


何はともあれ、レイナ改めレアは本当の姿で生活できる事に感動し、同時に肉体の変化を感じとる。女性の姿の時よりも身体の調子が良いように感じられ、身体が軽かった。



「なんか、不思議と身体が軽い気がします。なんでだろう……元の姿に戻ったからかな?」

「身体が軽い……分かった、胸が小さくなったからだと思う」

「なるほど、確かに胸が縮んだ事で身体が軽くなったように感じられるのか」

「あ、なるほど!!そういう事だったのか……あはははっ」

「…………」

「ぷるんっ!?」

「待て、チイ!!どうして剣を抜こうとしている!?」



レアの発言を聞いて虚ろな瞳でチイが短剣を引き抜こうとするが、慌ててリルが彼女を抑えつける事態に陥った。それはともかく、レアは元の姿に戻ると改めてレイナ達と共に獣人王国の王都へ向かう旅を始める――





※次回から獣人王国編です。

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