第105話 牙竜の死体
「――何だ、これは……?」
「死んでいる……?」
「そ、そんな馬鹿な……!!」
「……これが、牙竜なんですか?」
レイナ達の目の前には草原に横たわる巨大な生物が存在した。全身が灰色の鱗で覆われ、両腕の部分には羽根が生えており、西洋のドラゴンというよりは古代の肉食竜のような顔立ちの生物の「死骸」が存在した。体長は4メートルは存在し、身体のあちこちに血液が付着していた。
リル達の反応から察するにレイナは目の前の生物こそが「牙竜」と呼ばれる竜種だと判断するが、いったい何が起きたのか分からないが既に牙竜はこと切れていた。数体も存在すれば10万の帝国兵さえも撃退する程の戦闘力を持つはずの牙竜の死体を前にしてレイナ達は動揺する。
「見てください、この牙竜の首の傷跡……恐らく、噛みつかれて骨を折られたんでしょう」
「噛みつかれたって……こんな怖そうな生物が他の生物に殺されたの!?」
「そうとしか考えられないだろう!!」
チイの見立てでは牙竜は首をへし折られて絶命したとしか考えられず、首筋の噛まれたような跡がはっきりと残っていた。考えられる死因は他の生物と交戦し、首をへし折られたとしか思えず、リルもチイの意見に賛同した。
「恐らく、牙竜同士で同士討ちしたんだろう。しかし、牙竜は性格は獰猛とはいえ、同族同士では滅多に戦う事は無いはずだが……」
「同士討ち……という事は他の生物に襲われた可能性はないんですか?」
「それは有り得ない、竜種に対抗できる魔物なんて、この地方には生息しないはずだ。竜種を屠れるのは竜種のみ、それは自然の理だ」
圧倒的な戦闘力を誇る竜種を倒せる魔物など滅多に存在せず、基本的には竜種を屠れるのは同じく竜種のみというのがこの世界の常識だった。レイナ達が発見した牙竜も同族との縄張り争いに敗れたのかは分からないが、少なくともこの地域に牙竜を殺す力を持つ魔物は存在しない。
同族に殺されたと思われる牙竜の死体を前にしてレイナ達はどうするべきか悩み、死体の腐敗具合を考えても牙竜が殺されたのは最近の事らしく、まだ死亡してからそれほど時間は経過していない様子だった。つまり、この牙竜を殺した存在はまだ近くに潜んでいる可能性はあった。
「あの……これ、どうします?」
「どうすると言われてもな……本来なら竜種の素材は希少だ、解体して回収するべきだろうが今は一刻も早く離れた方が良い」
「賛成、ここに残るのは危険」
「欲をかいて命を落としかねない事態に発展するのは御免だからな……先を急ごう」
「「ウォンッ……」」
折角発見した牙竜の死体ではあるが、牙竜を殺した生物が近辺に存在する可能性がある以上、長居するのはあまりにも危険過ぎた。牙竜の死骸は放置するのは惜しいが、今は身の安全を優先してレイナ達は先を急ぐ。
魔除けの石が存在するとはいえ、どの程度の魔物に対して効力があるのかは分からず、もしも魔除けの石の効果を受け付けない存在に遭遇した場合も考慮してレイナ達は急いで牙路を通過するためにシロとクロを走らせる。しかし、その途中で双眼鏡で周囲の様子を伺っていたレイナは更に驚異的な光景を目にした。
「あっ……!?」
「どうした、レイナ君?また何か見つけたのか?」
「あ、あそこ……見てください!!」
「いったい何を……あ、あれは!?」
「そんな馬鹿なっ!?」
「ウォンッ!?」
移動の途中、レイナ達は再び牙竜の死体を発見した。しかも今度は2匹同時に横たわっている姿を発見し、どちらも深手を負った状態で倒れ伏していた。その光景を目にしたレイナ達は唖然とするが、嫌な予感を覚えたリルはシロとクロに命じる。
「立ち止まるな、先を急げっ!!」
「ウォンッ!!」
「いったい、何が起きてるんだ……!?」
「見て……また死体がある」
「何だと!?」
ネコミンが示す方角に視線を向けると、4体目の牙竜の死体が横たわっており、しかも今度の死体は胸元の部分が大きく抉れていた。
次々と自分達の前に現れる牙竜の死体に対してレイナはこの場所で何が起きているのか理解できず、ただ一つだけ分かる事は牙竜を殺した生物はそれほど遠くない場所に存在する事は確かだった。
(嫌な予感がする……すぐにここから離れないと不味い!!)
魔除けの石を抱きしめながらレイナは一刻も早く牙路を通過する事を祈り、周囲の警戒を怠らずに先に進む。それはリル達も同じ気持ちらしく、彼女達は無言でシロとクロを走らせてこの場を離れようとする。
――そんなレイナ達の様子を離れた丘の上から観察する生物の存在を彼女達は気付く事が出来ず、やがてその生物は丘の上から両腕を広げると、咆哮を放つ。
その生物の姿は牙竜と瓜二つではあったが、体長は通常の牙竜の倍近くは存在し、しかも灰色の鱗で覆われた牙竜とは異なり、黒色の鱗で覆われていた。
この牙竜と酷似した生物は突然変異によって生まれた牙竜の亜種であり、同族であろうと自分の縄張りに侵入した存在は許さず、襲いかかる程の獰猛な性格を誇る。
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