第71話 覚悟

――第四階層を抜け出し、遂に他の冒険者と合流を果たした銀狼隊が地上へ抜け出す事に成功したのはそれから数時間後の事だった。予想以上に冒険者達の疲労が大きく、安全地帯に立ち寄って休憩を挟みながら移動を行い、地上へ辿り着いた頃には時刻は昼を迎えようとしていた。


地上へ帰還した途端に冒険者達は大勢の兵士に迎え入れられ、ダガンが抱えているアリシアを確認すると兵士達は大歓声を上げる。その中には冒険者に調査させる事に不安を抱いていた将軍も存在し、彼等はアリシアを無事に連れ戻した銀狼隊に感謝の言葉を告げる。



「ありがとう、本当にありがとう……皇女様が無事なのは貴殿等のお陰だ!!この恩、決して忘れないぞ!!」

「銀狼隊、万歳!!」

「すぐに彼女達を王城まで送り届けろ!!英雄の誕生だ!!」

「いや、待ってくれ……その前に冒険者ギルドへ立ち寄らせてくれ。こんな格好じゃ、失礼だからね」



兵士達は銀狼隊に盛大な拍手を行い、すぐにでも彼女達を王城へ送り出そうとする。しかし、そんな彼等を振り切って銀狼隊の面子は先に冒険者ギルドへ立ち寄ることを断言し、ゴオンもそれに同意した。



「うむ!!我々は大迷宮から戻って来たばかりだ!!だから全員が疲れている、それに陛下に謁見する前に身体を清める必要があるからな!!悪いが、我々はこのまま冒険者ギルドへ帰らせてもらうぞ!!」

「しかし、我々は陛下からもしもアリシア皇女様を救出した冒険者が戻って来た場合、すぐにでも帝城に迎えるように言いつけられているのですが……」

「悪いがこちらの事情も踏まえてくれ……こう見えても二日近くも大迷宮に潜っていたんだ、少し休ませてもらわない身が持たないんだ」

「そ、そうですか……分かりました、では陛下にはそのように伝えておきます」



リルの言葉に将軍と兵士達は承諾し、アリシアの命の恩人の願いとあれば無下には出来ない。一先ず帝城へ戻るのはアリシアを連れたダガンと帝国の将兵たちだけとなり、冒険者達はギルドへ向かう。



「銀狼隊の皆さん、それに護衛を担当してくれた冒険者の皆様、この度の件は本当にありがとうございました」

「ダガンよ、お前もよく頑張ったな。さあ、アリシア皇女を連れて城へ戻れ!!陛下によろしく伝えてくれ!!」

「分かりました……では、後程迎えに行きます!!」



アリシアを抱えたダガンが城へ向かうと他の兵士達も後に続き、その様子を見送ったレイナ達は一安心する。これで彼女はもう大丈夫だろう。


だが、ここから先が重要な問題であり、冒険者達の目を掻い潜ってレイナ達は王都から抜け出さなければならなかった――






――冒険者ギルドへ帰還したレイナ達は真っ先にギルド内に存在する更衣室へ案内され、そのまま浴室で身体を清めた後に陛下に謁見する事を伝えられる。


既にギルドの前には出迎えの兵士が待機しているらしく、あまり時間を取り過ぎないように注意された。



「皆様の疲労が蓄積されている事は承知です。しかし、陛下を待たせるわけにはいきません。身体を洗った後はすぐに着替えて用意を済ませてください」

「全く、人気者は辛いな……大丈夫だ、すぐに用意するよ」

「何かありましたら外へ声を掛けてください。では、私はこれで……」



ギルドの職員が更衣室を出ていくと遂にレイナ達だけとなり、他に誰かいない事を確認した後、4人はこれからどうやって脱出するべきかを話し合う。


更衣室は冒険者ギルドの1階に存在し、窓は存在しない。浴室には天井の近くに換気用の窓が存在し、抜け出すとしたらこの窓からになる。


窓の外は冒険者ギルドの裏庭に繋がっており、ここから抜け出せれば簡単に外へ逃げる事は出来る。念のために外の様子を確認した後、リルは他の者に脱出の手段を伝えた。



「よし……まずは身体を拭いた後、服を着替えよう。変装用の化粧を使い、別人へ成りすます」

「でも、このまま消えたら怪しまれるんじゃないんですか?」

「それは仕方がないさ、このまま私達が皇帝の所に赴けば、必ず謁見の前に鑑定士が私達のステータスを調べて正体が把握されてしまう。そうなる前に我々はこの王都を抜け出さなければならない」

「むしろ、お前の方が大丈夫なのか?このまま私達と同行せず、アリシア皇女を救った事を伝えれば無実が証明されるのかもしれないんだぞ?」

「私達と本当に一緒に来てくれるの?」

「……はい、皆さんと一緒に行きます」



リル達の問いかけにレイナは少し考えた上で同意し、このまま国へ残ってもウサンの監視下で生活を送るぐらいならリル達と共に他国へ脱出した方がマシだと判断した。


心残りがあるとすれば勇者たちの存在だが、今のレイナでは彼等全員を連れ出す力はなく、一先ずはリル達と行動を共にして彼等と接触の好機を計るしかない。


現時点ではヒトノ帝国を裏で支配しているウサンに対してレイナはあまりにも無力であり、彼一人では対抗する術がない。それならばヒトノ帝国以外の国家に頼るしかなく、リル達と行動を共にする事をレイナは誓う。

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