第48話 冒険者同士の争い

第二階層の移動を初めてから20分が経過した頃、遂に捜索隊は第二階層の安全地帯へと辿り着く。



「見えたぞ!!あそこが第二階層の安全地帯だ!!」

「言われなくても知ってるよ!!いちいち大声を上げるなよ!!」



第二階層の中央部に存在する安全地帯は円形場の大きな広間であり、半径は15メートルは存在する。


捜索隊が出発する前に先行させていた他の冒険者が補給物資を用意して待機しているはずだが、捜索隊が到着する寸前に怒声が響く。



「なあ、こんなにいっぱいあるじゃないか!!頼む、1本だけでもいいから!!」

「駄目だ!!これは後から来る捜索隊の補給物資だ!!お前等に渡す分はない!!」

「そこを何とか……金なら外に戻れたら払う!!だから頼む!!」

「おい、いい加減にしろ!!」



安全地帯であるはずの広間から冒険者同士が言い争う声が聞こえ、何事かと捜索隊の一向は広間に辿り着くと、そこには木箱を持つ兵士の前に複数人の怪我をした冒険者達が群がっていた。


状況的に考えて捜索隊が受け取るはずの補給物資を冒険者達が求めているらしく、兵士は捜索隊の姿を確認すると慌てて事情を説明する。



「あ、将軍お待ちしていました!!補給の準備は整っています!!どうか早く受け取ってください!!」

「お前等、離れろっ!!」

「うわっ……た、頼む、見捨てないでくれぇっ!!」



兵士達は冒険者を振り払うと捜索隊の元へ駆けつけ、木箱を運び込む。負傷した冒険者達は助けを求めるが、そんな彼等を見てダガンは兵士に状況を問う。



「彼等は何者だ?」

「この階層を探索していた冒険者のようですが、どうやらオークにやられてここまで逃げ延びたようです。捜索隊の補給分の回復薬を求めてきましたが……断ってもしつこく求めてきます」

「なるほど……大怪我を負った人間もいるのか」



冒険者の中には腕を骨折した人間や腕の肉を剥ぎ取られた者も存在し、早急に治療を行わないと危険な状態の人間も少なくはなかった。


しかし、兵士は捜索隊のために用意した物資に含まれている回復薬は余分には用意されておらず、残念ながら捜索隊以外の人間に回復薬を渡す余裕はなかった。



(……もしかして、チイさんが言っていたのはこの事だったのか?)



レイナは負傷した冒険者が兵士達に縋りつく姿を見て、チイが少し前に「安全地帯」だからといって本当に安心して身体を休められる場所ではないという意味の真実を知る。


安全地帯は確かに魔物が寄り付かないが、負傷した状態で辿り着いた冒険者は治療手段を持っていなければ安全地帯に辿り着いたとしても怪我の治療も行えず、他の冒険者を助けを求めるか、自力で地上へ帰還するしかない。


仮に他の人間に助けを求めるとしても、大迷宮は非常に危険な場所であり、安全地帯に訪れた他の冒険者が他人を救える程の余裕があるのかも分からない。先ほどの兵士と冒険者のやり取りを思い返し、大迷宮の敵は魔物だけではなく、時と場合によっては他の冒険者も厄介な存在になりかねない。



(同じ冒険者だからといっても助けてくれるとは限らない……下手をしたら狙われる事もあるのかもしれないな)



安全地帯に辿り着いた負傷状態の冒険者を狙う悪しきな輩も存在する可能性も十分にあり得るため、もしも負傷者を治療する事を条件に理不尽な要求をしたり、場合によっては冒険者を殺して相手の物資を奪おうと考える人間も存在するだろう。


実際にレイナの予想は正しく、大迷宮では毎年に何件も不審な死を遂げた冒険者達が存在し、彼等は他の冒険者に狙われて殺された可能性が高かった




レイナが考え込んでいる間、第二階層に運び込まれた補給物資は全員分の食料と飲料水、そして回復薬ではなく薬草を調合した「丸薬」という薬しか存在しなかった。


この丸薬は飲み込めばある程度の体力回復と怪我の治療が行えるが、回復薬と比べると効果は薄く、しかもかなり苦味なので一度に大量に摂取は出来ない。



「こちらが皆様の補給分です。それと、申し訳ありませんが第三階層へ向かった補給部隊とは連絡が途絶えました……」

「そうか……皆さん、申し訳ありません。第三階層へ向かった兵士はもう魔物にやられている可能性があります。ここでの補給が最後になるかもしれません」

「ちっ……たったこれだけかよ」

「まあ、仕方あるまい……ないよりはましだ」



僅かな分しか補給を得られなかった事に冒険者達は不満を抱くが、仕方なく補給物資を受け取ろうとした時、負傷していた冒険者達が縋りついてくる。



「ま、待ってくれ……頼む、俺達を見捨てないでくれ!!」

「ギルドマスター!!どうか、助けてください!!」

「ふむ……仕方あるまい、この者達は俺が連れて帰ろう。急げばまだ間に合うだろう」

「おいおい、こんな奴等放っとけよ!!自業自得だ、自分の力量も考えずにこんな場所までくるからこうなるんだよ」

「何だと……うぐぅっ!?」



ガロの言葉に負傷した冒険者は言い返そうとしたが、無理に動いたせいで傷が悪化して膝を崩す。その様子を見て他の冒険者達も辛らつな対応を行う。



「……大迷宮に挑む以上、常に死ぬ覚悟を抱け。ここは魔物の巣窟だ、他人の助けなど当てにするな」

「そうそう~身の程知らずは早死にするよ~」

「この階層はまだお前達には早かったという事だ。ほれ、儂らの丸薬はくれてやるから大人しく引き返せ」

「くうっ……すいません」



ゴイルが自分達の分の丸薬を渡すと、冒険者達は礼を告げてゴオンの元に集まり、彼の手で地上まで引率してもらう。ゴオンは後で必ず追いかけてくる事を約束して地上へと向かった。


ここでゴオンがいなくなることは戦力的に考えてもきついが、かといって彼としても自分の元で働く冒険者達を見捨てられず、ダガンに後の事を任せる。



「それではダガンよ、こいつらを頼んだぞ!!俺はすぐに戻ってくるからな!!」

「分かりました!!ではお気を付けてお戻りください!!」



ここから先の道案内は地図を受け取ったダガンの担当となり、彼は捜索隊の一向に振り返ると、休憩を挟んでから第三階層へ挑むことを提案する。



「では、ここで少し休憩を挟み、第三階層へ到着次第に食事を行いましょう。今の内に準備を整えて……」

「おい、何言ってんだ?このまますぐに行くに決まってるだろ?」

「え?いや、しかし皆さんも休憩を……」

「俺達は大丈夫だ、それよりも急いで行動しなければアリシア皇女の命が危ないぞ」

「そうかもね~皇女様、無事かな~?」

「儂等は第三階層などちょくちょく訪れておる、この程度の移動距離なら苦にもならん。ほれ、さっさと出発するぞ」

「ここは皆の言う通りだ。一刻も早く、アリシア皇女を救いたいのであれば移動速度を上げるべきだと私も思う」

「それは……そうですね」



ゴオンが消えた途端に冒険者達は自分の意見を言い出し、ダガンは困った表情を浮かべるが、冒険者達は先へ進むことを提案する。


結局は彼等の言い分にも一理あると判断したダガンは承諾し、休憩を挟まずに第三階層へ続く階段の場所まで向かう事を決意した――





――それから更に30分後、何度かオークの襲撃を受けたが冒険者達は難なく撃退し、遂に第三階層へ続く階段へ辿り着く。こちらの階段は第二階層の時と同じく、安全地帯となっていたので魔物達に襲われる心配はなかったが、意気盛んな冒険者達はここでも休息を挟まずに第三階層へ向かう。


第三階層へ到着すると、最初にレイナは違和感を感じたのは壁の高さだった。これまでの階層では壁は天井に届く距離まで存在したが、何故かこの階層に関しては壁の高さは2メートル程度しか存在せず、肩車でもすれば壁の向こう側も確認出来そうな大きさしか存在しなかった。

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