第4話 職業の制限
レア以外の人間はウサンが用意した「魔法書」と呼ばれる書物を読み解く事に成功したが、何故かレアに渡された書物だけは中身が何も描かれておらず、他の人間のように魔法を習得する事が出来なかった。レアの言葉に眉を顰めながらもウサンは他の勇者に質問を行う。
「他の勇者の方々は魔法を覚えられましたかな?」
「なんか、変な画面が現れて魔法を修得したって文章が……」
「おお、それは素晴らしい!!難解な魔法書を簡単に読めるとは、やはり貴方達は勇者だ!!」
どうやらレア以外の者たちは本の中身を読み解けるらしく、記されている文章を読んだ瞬間にステータス画面とは異なる別の画面が現れて魔法を習得した事が判明する。
瞬の返答を聞いたウサンは大げさに拍手を行い、玉座の間に存在した他の人間達も拍手する。レアを除く勇者達は普通に本を読んだだけで本当に魔法を覚える事が出来た事に疑問を抱いているが、ウサンは早速彼等に魔法を試すように促す。
「どうですかな?それでは早速魔法を扱って見ますか?」
「え?もう魔法が使えるのか!?」
「はいはい!!私、私がやりたい~!!」
真っ先に彼の言葉に反応したのは雛であり、彼女の言葉にウサンは頷くと即座に兵士達に木造製の人形を玉座の間に運び出させる。人形を彼女から5メートル程離れた位置に設置すると、彼女に魔法を発動させるように告げる。
「これは訓練用の人形です。どうぞ、これに向けて魔法を発動してください」
「えっと、どうやるの?」
「おい!!誰か杖を貸さんか!!」
「は、はい!!」
ウサンの言葉に慌てて1人の女性が駆け寄り、ウサンが所持している杖のように宝石のように輝く水晶玉が取り付けられた杖を用意する。
雛は女性から杖を受け取り、木造人形に先端を向けながら自分のステータスに表示された「魔法」の名前を叫ぶ。
「よ~しっ……スラッシュ!!」
雛が魔法の名前を発言した瞬間に杖の先端から衝撃波のような物が放たれ、三日月の形を想像させる風の刃が木造人形を真っ二つに切り裂く。
そのあまりの威力と実際に魔法を発現させた彼女に誰もが驚愕の視線が向け、その一方で雛は興奮したように杖を握りしめる。
「す、すごい……本当に出来たよ~!!」
「マジかよ……信じられねえっ!!」
「ぼ、僕も試していいかいっ?」
「勇者様、こちらをどうぞ」
他の2人が雛の元に駆け寄り、彼女から杖を借りる前に女性の使用人が即座に動いて別の杖を差し出す。だが、一人だけ魔法の習得が出来なかったレアだけは魔法書を何度も開いて文章を読み込もうとするが、中身は何も描かれていない事に変わりはなく、魔法を習得する気配はない。
彼は困惑した表情をウサンに向けると、ウサンが他の勇者達の行動に笑みを浮かべている事に気付く。そして自分が見られている事に気付いたウサンは只一人だけ魔法を覚える事が出来なかったレアに不機嫌そうに眉を顰める。
「……どうですかな?いい加減に魔法を覚えられましたかな?」
「いい加減にって……どういう意味ですか?」
「おっと、これは失礼……それで、魔法書は読み解く事は出来ましたかな?」
「それが……職業に制限が掛けられているという文面が出たんですけど」
「なに?……まさか、ステータス画面の称号と勇者殿の加護を答えてくれますか?」
ウサンの表情が一変し、レアは自分のステータス画面を確認して称号と加護の項目に記されている文章を素直に答える。
「称号は解析の勇者、それと「文字の加護」というのが出てるんですけど……加護の方は文字を変換する能力みたいです」
「解析?文字の加護?おい、記録にあるか?」
「……いえ、古文書にはどちらも記されていません。文字を変換する能力を持った勇者が召喚された前例がありません」
傍に待機させていた兵士の言葉にウサンは胡散臭そうな表情を浮かべ、どうやら過去に召喚された勇者の中にレアと同じ称号と加護を持つ人間は存在しないらしい。そもそも文字を変換するだけの能力など何の役に立つのかも分からず、ウサンは他の勇者にも話を聞く。
「こちらの勇者以外のお方も念のために称号と加護を教えてくださいますか?」
「あん?俺は拳の勇者だ。加護は「拳の加護」だ」
「剣の勇者です。加護は「剣の加護」です」
「私は魔法の勇者だよ~加護は「魔法の加護」と書かれてるけど……」
「大臣!!拳、剣、魔法の勇者様は過去にも召喚されております!!加護に関しても全く同じ能力です!!」
「ふむ……それならば問題はないか」
他の勇者の言葉にウサンが安堵した表情を浮かべるが、レアとしては自分だけがどうして他の3人と違って文字を変換するだけの能力しか備わっていないのか分からずに困っていると、皇帝が口を挟む。
「ウサンよ、まずはレア殿の加護の能力を確かめたらどうだ?もしかしたら、素晴らしい能力かもしれんぞ?」
「文字を変換するだけの能力に何が意味があるとは思えませんが、皇帝陛下がそうおっしゃるのであれば……ではレア殿、能力を発動させてみたまえ」
「能力を発動って……どうするんですか?」
「自分の能力ならば他人に聞かずとも、その内容を理解出来るはずだ」
「霧崎君、学生手帳で試したらどうかな?」
ウサンの言葉を聞いた瞬が助言を行うと、レアは言われた通りに自分の学生手帳を取り出し、とりあえずは学生手帳の表紙に記されている「白鐘高等学校」の文字を変換させる事にした。とはいえ、能力を使えと言われてもどうすればいいのか分からずに困っていると、無意識に指先が動く。
試しにレアが記されている文字に人差し指を押し付けた瞬間、指先から淡い光が放たれ、偶然にも触れていた「白鐘高等学校」の「白」の部分が光りだす。その光景を見て他の者達も驚き、一方でレアは自分でも能力が発言したという自覚を抱く。
(わかる……この状態で他の文字の事を思い浮かべながら文字を書き込めば変更されるんだ)
強い確信を抱いたレアは能力を発動させると、試しに「白」という文字を「黒」と変換させるため、指先が動かして文字を書き込んだ瞬間、手帳に最初に記された文字が消えて新しく書き込んだ文字に変化した。これで能力の発動に成功したらしく、レアの手帳には「黒鐘高等学校」と記された学生手帳だけが存在した。
『使用可能文字数:9文字』
能力の発動を終えるとレアの視界にステータス画面とは異なる画面が表示され、即座に消え去った。内容的に考えて能力を発動する度に使用可能な文字数が表示されるらしい。
但し、残念ながら本当に文字を変換させただけで特に手帳自体に変わりはなく、名前を変えたところで何も変化が起きなかった。その様子を見ていた者達はあからさまに落胆する。
「え?まさか、これで終わりなのか?」
「本当に文字を変えただけ?」
「えっと……け、消しゴムがなくなった時は便利だね!!」
「いや……無理に慰めなくてもいいよ」
「むうっ……ま、まさか本当に文字を変換させるだけの能力とは」
玉座の間に微妙な雰囲気が訪れ、レア本人も自分の能力の意味の無さに頭を抱える。まさか、本当に文字を変換させるだけの能力など思いもよらず、ウサンに至ってはわざとらしい溜息を吐き出す。
「どうやらキリサキ殿の能力は「はずれ」のようですな。まさか、本当にこんな使えない能力しか覚えていない勇者が現れるとは……」
「ウサン!!口が過ぎるぞ!!」
「おっと、これは失礼しました」
ウサンの言葉に即座に皇帝が怒鳴りつける。ウサンは謝罪するが、それはレアに対してではなく皇帝に対してであり、本人は悪びれもせずに鼻を鳴らす。そんな彼の態度を見かねた瞬が話題を変えるために本題へと入る。
「皇帝陛下、僕達にその魔王軍の打倒のために協力して欲しい事は分かりました。ですが、具体的に僕達はこれからどうすればいいんですか?まさか漫画やゲームのように魔王を倒す旅に出ろと言い出すつもりじゃ……」
「げえむ?よく分からんが、勇者殿にはしばらくはこの城に滞在してもらう。まずは訓練を受けた後、本格的に戦闘の経験をして貰う。その後はそれぞれに見合った装備を渡して各領地の防衛を任せたいのだが……」
「え?魔王軍の討伐はどうするんですか?」
「実は魔王軍に関しては我々もその正体を完全に掴めておらん……奴等は帝国の領地に頻繁に出没して被害を与えるが、こちらは未だに敵の本拠地も発見していない……だが、奴らが世界各地の聖光石を強奪している事は確かじゃ。だから勇者殿を元の世界に帰す為には奴等の聖光石を取り返さなければならない。無論、お主達には悪い事をしたと思っている。その代わりと言っては何だが、この世界に滞在中の間は衣食住は不自由させん。何か望む物があれば出来る限りは用意しよう」
「ふん、まあ当然だな。勝手に俺たちを呼び出してしかも元の世界へ帰せないだと?それぐらいはしてもらわないと割に合わねえよ」
「勇者殿!!いくら其方達が異世界の人間だとしても、その口振りは皇帝陛下の無礼とは思わぬのか!?」
「構わんっ!!彼等はこの帝国を救うために召喚に応じてくれたのだ!!我々は助けを求める側だ……口出しするな」
「……申し訳ありません」
勇者達の皇帝に対する口調にウサンが反発するが、皇帝が直々に彼等を黙らせる。レアは皇帝が元々は異世界から勇者を呼び出すのは反対していたという話を思い出し、皇帝としても自分達の国の問題を異世界から訪れた勇者に任せる事に負い目を感じている事を悟る。
仮に召喚に反対していたといってもこうしてレア達が実際にこの世界に転移した以上、彼も最終的には召喚させる事を容認したのは間違いない。だからこそ皇帝は召喚されたレア達を気遣うが、瞬がそんな彼に遠慮して皆を説得した。
「皆、ここで皇帝様を責めた所でどうしようもないだろう?どちらにしろ僕達が元の世界に戻るには魔王軍を倒さないといけないんだ。だからここは力を合わせて頑張ろうじゃないか!!」
「う~ん、瞬君がそういうなら……」
「ちっ……面倒くせえな……」
「……俺、役に立つの?」
まるでラノベの物語の主人公のような発言を行う瞬の言葉に召喚された4人の勇者は顔を見合わせ、仕方なく帝国の人間と協力して魔王軍の打倒を誓う。
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