第10話 家族と一緒に繋がってる
ひとつだけのベッドを三人で譲り合った結果、わたしたちは
複雑な心境で眠れないのはさることながら、時刻はまだ夜の九時前で睡魔の気配なんてものは皆無。
病院の就寝時間じゃあるまいし、マジで勘弁してほしいレベルだけど、家主サマ本人が「傷を癒すために早寝したい」って言うから仕方がない。でも、早く朝になってくれれば、それでいいや。
ちなみに、ふたりと
つまり遊香は、この状況下でもセックスをする人種なのである。
「……アイ、起きてる?」
「……なによ?」
「ここだけの話なんだけどさ」
「ちょっと待ってよ、お母さんも絶対にまだ起きてると思うけど、それって大丈夫な話?」
「……スヤスヤ」
「寝息がRPG! お母さんも眠れないなら、やっぱフツーに起きててよくない?」
起き上がろうとしたわたしの手を、遊香がそっと握って引き留める。
「このままでいいから、少し三人で話そうよ」
なにかしらの強い決意が感じられる語気に、わたしもおとなしく従う。どうやら、さけては通れなさそうな話題のようだ。
「わたしね、やっとわかったんだ。刺されそうになったあのとき、このまま死ねない、死にたくないって。ふたりと一緒に、新しい家族になりたいって」
「家族……」
そっか。
遊香も両親は離婚していなくっても、家庭に恵まれてはいなかったんだ。ひとり暮らしなのに、家族の写真が一枚も飾られてないし、学校でも親の話題になったことがなかったな。あれってやっぱり、意図的にさけてたんだね。
握られたままの手を、わたしは無意識に握り返していた。
「そう思ったら、身体が自然と動いてナイフを掴めたんだよ。愛の力って偉大よね」
「う……ん。愛の力かはわからないけど、刺されなくって本当に良かったよ。怪我はしちゃったけどさ、本当に良かったよ」
わたしの隣で、お母さんの鼻が小さく鳴った。
「うん。でも、指の怪我はけっこう
「それなら、うちにいらっしゃいよ!」
「うわっ?! びっくりしたぁ!」
突然の耳もとでの大声に、わたしの心臓が止まりそうになる。
「片手の生活は不便だろうし、それに、またその子に襲われたらどうするの?」
「たしかに……って、わたしは!? 学校でひとりなのよ!? そもそも狙われてたのって、わたしじゃね!?」
「アイは多分、もう襲われたりしないと思う。相手は、わたしを傷つけておびえていたし、逆にわたしが学校をずっと休めば、怖くなって転校するかもね」
そんなに物事が
「結局どうすんの? お母さんも
「ゆかりんは、合い鍵持ってるから大丈夫よね?」
「うん」
「ええっ……」
いつのまにか合い鍵まで所持していた友人を心友と呼ぶべきなのだろうか?
「それでさ、アイ」
「……なによ?」
「わたしたち、結婚するんだ」
「………………ん?」
「ウフフ♡ もちろん、いますぐにじゃなくって、高校を卒業したら、ね♡♡♡」
「いや、えっ? お母さんもなにいってんのよ?」
「ジャジャ~ン♪」
横になったまま前に突き出された母親の左手の薬指には、光り
「あのねアイちゃん、お母さんさっき、お風呂場で
「婚約指輪を? お風呂場で? でもさ、遊香も全裸じゃ……おい、おまえ! どっから出した!?」
「スーパー・イリュージョン」
「大切な婚約指輪なのに、マジっすか……」
「アイは、結婚に反対?」
「わたしは…………」
同性婚自体には否定的じゃないし異論もないけれど、
それでも、最優先すべきなのはお母さんの幸せだ。そう頭では理解できていても、答えはすぐに出てこなかった。
お母さんの手が、無言のままそっとわたしのもう片方の手を握る。
唇を噛みしめて長考する。
時間だけが淡々と過ぎてゆく。
ふたりはただ、わたしの返答を待ってくれていた。
「……いいじゃん、好きにすれば。その代わりおまえ、お母さんの分までしっかり稼いでわたしたちを楽させ……ろよな!」
勢いよく吐き捨てるつもりが、最後になって涙声になっちゃった。
悲しくて泣いたのか、悔しくて泣けてきたのかわからない。わからないけども、ずっとわたしの手を握っていたふたりの指の力が、そのときにギュッと強くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。