第102話 お嬢様は世界の運命を背負わされる
ルーノウ公爵ら反乱の首謀者の処刑は無事に執行された。
私はまたハインリッヒの介入があるかと心配したけれど、そんなことはなかった。おそらくだけれど、ハインリッヒにとってルーノウ公爵たちはもう価値のない人物だったのでしょうね。
「うーん、うーん」
「そんなに
何日か前は泣いたと思ったら、今日は資料を片手に唸り声。お父様はお忙しい。いえ冗談ではなく、ただでさえ多かったお父様のお仕事は、今回の反乱で尋常じゃない量に増えているのだ。
しかし王都ではなく可能な限り自領で政務をしたいらしい。愛する娘の私と一緒にいたいからだ。
ウヒヒ、さすがお父様。私愛されてるー!
これって前世で言うところのテレワークかしらね?
「いやあ、今回の反乱でだいぶ
お父様から手渡された資料には、今回の反乱における仕置きが記載されている。処刑、処刑、幽閉、そして処刑。貴族位剥奪に追放処分。血なまぐさいことしか書いていない。
当主を処刑して一族から新たなる当主がつくパターンもあれば、一族郎党追放もある。処分が及んでいない人もいるけれど、どうやらこれは親族や実家が嘆願した結果みたいだ。まあ貴族ってたどるとみんな親戚みたいなところもあるしね。
とりあえずルシア以外の悪役令嬢四天王の家は、当主が処刑で一族は身分剥奪の上追放みたいだわ。
「領地が増えるのは良いことではないのですか?」
「その分責任は増えるからね。そして大領を持つと睨まれやすくもなる……」
わかってはいたけれど、やっぱりお貴族様や王様の生活も楽じゃないわよねー。あっちの反乱を鎮圧したと思ったら、こっちの部下が権力を持つようになって反乱。飛び交う権謀術数、裏切りの嵐。平穏という言葉は存在しないわね。
「いくらかはレオナルドに任せるとして、飛び地は領主代行を……」
☆☆☆☆☆
前世ではブラック激務にすり減らされ、コンクリートジャングルの露と消えた。転生したら死亡フラグ満載の悪役令嬢で、しかも自称異世界転移者の変質者がつきまとう。ちなみにビームが飛び交うロボットバトル付き。
私は前々世でいったいどんな
神様にでも一つ尋ねてみたいところだけれど、私は知り合いに自称神は一人しかいない。あのおとぼけ女神が神様のスタンダートだとすると、この世が理不尽なのも納得のいくところね。
「というわけで、出てきなさいおとぼけ女神ー!」
例によって例の聖堂。月の満ち欠け、
毎回進化していくこの人形。レンドーン家領内一の職人に大金払って作らせているけれど、もしかしたらこれがこの世界初の美少女フィギュアかもね。あ、少女じゃないですわね。
『神は歳をとらないから永遠に若いままよ~』
「うわっ!? あんた思考を読んだの……?」
『元々あなたをこの世界に送った時も、あなたの思考読んで判断したじゃな~い』
言われてみれば確かに。うーん、この無駄に神様感あふれる謎スペック。
『それも読めているんですからね~。今回のパンツはどんなイケメンの物かしら~?』
「かかったわね
『……うーん、ナイスミドルゥ! これはこれでいいわ~』
くっ……、私の予想に反して喜んでいるわこの女神。
というかこんなんだから邪神呼ばわりされるのよ。
「そんなことより本題よ。あんたの言うところの世界を歪める者を発見したわ。あのハインリッヒとかいう気持ち悪い男よ。あいつが異世界転移者だったわ」
顔はイケメン風だし、ハインリッヒの事を最初はマギキンの隠しキャラかとも思ったわ。
私は前世でマギキンのスチルをコンプできていない。だから隠しキャラがいるかもって先入観があったからね。
でも違った。あいつは自分の事を異世界転移者と言っていた。つまり私と違って、この世界でのバックボーンが一切ない所から発生したまさにこの世界の異物そのものってことよね。
「あんた転生者は私一人って言っていたわよね? じゃあ転移者って何なの?」
『転移者はなんらかの弾みでこの世界へと迷い込んだ者よ~。前世で神隠しとかって聞いたことな~い?』
なるほどねー。この世界にいるのは事故みたいなものってことなのね。
「まあどうでもいいけれど、世界を歪める者はわかったからさっさと天罰でも下してあの男を倒しちゃいなさいよ」
『それは無理よ~。神は人を助けることはあっても介入はしないって前にも言ったじゃな~い』
やっぱり丸投げですかそーですか。
「そう言えばあんたハインリッヒの事を禍々しい気を放っているとか言っていたわよね。あれってどういう意味かしら?」
『聞きなさい、レイナ・レンドーン』
うわっ、真面目トーン!
これが来たってことはまた面倒事を押し付けられそうな予感……。
『世界を歪めし者によって起きるはずのなかった戦いは起こり、死なぬはずだった人間が死んでいるのです』
「ど、どういうことよそれ……?」
『考えてみなさい。本来剣や弓、そしてある程度の威力の魔法で行われた戦いが魔導機を用いて行われているということを』
魔導機という物は本来この世界に存在しなかった。それをどういう手段かは知らないけれど、あの異世界転移者のハインリッヒは造り出した。
結果、新技術の力によりドルドゲルスはいくつかの戦いに勝利して勢力を拡大した。それは本来起きるはずのなかった戦いだわ。
そしてその戦いでは魔導機が使われた。魔法の威力を何倍もに高める魔導機の存在は、戦いを弓の打ち合いからビームの打ち合いに、剣と槍の勝負から巨人達の格闘戦へと変貌させた。つまり戦いの規模が本来よりも大きくなったということね。
『激化する闘争、増える死者、エスカレートする奪い合い、不足する魂のリソース。行きつく果てはこの世界の終わりです』
「この世界の終わり!? 何よあんた、私に世界を救えとでも言うの!?」
『私は世界を救えなどとは命じません。繁栄も破滅もそれは人の世の営み。だからこそもう一度言いましょう。レイナ・レンドーン、運命を乗り越えなさい』
私が乗り越えるのはマギキンのエンディングで訪れるデッドエンドじゃないの!?
それが世界の破滅――世界のデッドエンドを乗り越えろって? 冗談がきついわ。
『汝、神の使徒レイナよ。歪みを正すのなら手助けをしてあげましょう』
「手助けって……完全に他人事じゃないの! それに私はあんたの使徒なんかじゃない」
今もし秩序か混沌を選ぶゲームをプレイしたら、迷いなく混沌ルートに行ってこのおとぼけ女神を散々に泣かせてやるわよ。
「あんたの言いなりになるのは嫌だけど、それはそれとしてハインリッヒはムカつくからどうにかするわ」
『もう強情ね~。まあいいわ、録画したドラマも見たいし私も帰るわ~』
録画したドラマって。このおとぼけ女神、世界の危機は私まかせな癖に……!
これ以上顔を会わせていると、本気で魔法をぶち込みたくなってくるので、私は女神が消えるのを待つことなく背を向けて出口へと歩く。
ステイクール、ステイクール。そうよ、今の私は立派な
『……まあ、少しは助けてあげるわ』
脳内でおとぼけ女神とハインリッヒをシバイて回るのに夢中で最高にハイだった私は、女神が消え際に何か言ったのに気付くことはなかった。
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