第3話 犬の警官 ライヴ・バレット
ケイスとゲイブマンは連れ立って夫々の家に向かう。
途中でゲイブマンと別れ、ケイスは自分の家に向かった。
ケイスの家は以前は紡績工場で、現在は稼働していない工場の社屋を勝手に流用していた。
この家は、住人が思い思いに端材を持ち込み、建物の内部に壁やらドアやらを勝手に作っていた、一種のアパートであった。
従ってただ同然の家賃で、だからケイスはこのアパートにある自分の部屋を気に入っていた。
ケイスの部屋の、青に塗られたお手製のドアの前に人が一人座り込んでいた。
小柄な男で、もしかしたらまだ子供なのかもしれない。
顔も露出している肌も汚れきって人相も年齢もわからない。ぴくりとも動かず、生きているのか死んでいるのか判別が付かない。
死んでいるのなら市の衛生局に連絡をして死体を処分してもらわなければならない。
首の動脈をさわり脈を取ってみる。肌が冷たい。何度かさわり、脈を確認した。
かなり遅いがまだ生きている。
軽く舌打ちした。
生きていると知ってため息がもれる。死んでいたら楽だったんだがな、そう思う。
まだ生きてはいるが、かなり衰弱しているから放っておけばそのうち死ぬだろう。
それから衛生局に引き取ってもらえばいい。ただ、死ぬまでドアの前に放置しておくのは少し気分が悪かった。
道徳的な問題では無く、割合満足する出来のドアが汚れると感じていた。
それから一分逡巡して、そいつを部屋の中に入れると決めた。
肌が浅黒く見えるほど垢と泥で汚れ、体からは排泄物のような悪臭がした。
部屋からタオルをとってくると、それの脇の下にタオルを通し、そのタオルを引っ張って中に入れた。
中に入れるとそいつをバスルームに放り込んだ。タオルはダストシュートに捨てた。
それから代用コーヒーを入れ、冷蔵庫から333ビールを取り出し、イスに座ると交互に飲み始めた。
コーヒーが冷め、ビールをあらかた飲んでしまうとバスルームに行った。バスルームの中の男をシャワーで洗うつもりだった。
部屋に寝かせるべきなのだろうが、汚いまま、おそらく虫がついている体を部屋にあげる気になれなかった。
シャワーを浴びせるために服を脱がす。
男物のボロのような服を着ていたから気が付かなかったが、露わになった下着は女の物で、僅かな胸の膨らみがあった。
まだ成熟していない少女の体だった。
ケイスは、思わず喉を鳴らした。存外に大きい音で、その瞬間的な性への欲求の大きさに自分自身を浅ましい犬のように思い、少し恥じた。
まだガキで起たせるなんて、どうかしているぜ。と思った。
服も下着もすべて脱がせるとバスタブに入れて石鹸をたっぷり使い洗った。
洗っている間、まだ陰毛が生えそろわず、うっすらと恥部が覗ける股間に目が奪われがちになり、引き離すのに苦労した。
三回石鹸で洗い、ようやく泡が立つようになったからシャワーを浴びせて流した。
流し終わるとバスタオルでくるんで抱き上げ、床に敷いた毛布の上に寝かせた。
それから救急医療キットから強心剤と注射器を取り出し、右手の肘の内側に打った。
それから生理食塩水の点滴をした。多分脱水症状を起こしていると思ったからだ。経口からでは意識がないから、出来ない。
二時間で一パック空くからそのあともう一パック点滴をして、回復しなければ、衛生局に連絡だな、と眠い頭で考えた。
医師の診察など端から頭になかった。見ず知らずの女に医者を呼ぶなど、カネがかかるだけでケイスにとってなんの意味もなかった。
大あくびして、その拍子にベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまった。
目が覚めると朝で、点滴が空になってから2時間経っていた。頭をボリボリとかくと、バイタルをチェックした。血圧が少し低いが、幸い心拍はゆっくりながらも安定しているようだった。小娘――ケイスはその女を小娘と呼ぶことに決めていた――にもう一パック点滴した。
点滴のパックと強心剤、それに注射器が無くなったな。後で、救急医療キットの配布申請しなければ、と思った所で、新しい署長、――キシダ署長と言ったか――が赴任したあとで配布申請をしたことがない事に気が付いた。
大分吝嗇な署長だ、配布されないかもしれんな、と思ったが、事務の女の子に飯でも奢れば、稟議も通るだろう、と思った。
問題は事務の女の子が俺と飯を食いに行きたいか、という事だが。
午後番の日なので昼間でゆっくり眠ることにした。そうでなければ昨夜痛飲するはずもなかった。
ケイスが目を覚ますと、小娘は目を開けていた。
「起きたか」
「ここは……?」
「俺の家だ。そしてお前は俺の家の前で倒れていた」
何か思い出そうとしているらしいが、どうやら思い出せないようだった。
ケイスはその間にパウチに入った豆を取り出し、紐を引っ張った。すると蒸気の音とともにパウチが温められた。
一つ小娘に渡し、食べろ、と言った。
小娘は頭を曖昧にふり、
「ごめんなさい、今は……」
と言ってきたので、ケイスは
「食べられる時に食べないと、また倒れるぞ」
と言った。
そう言われた小娘はスプーンをパウチにさして、もそもそと豆を食べた。
「じゃぁ俺は昼から勤務だからお前、その前に出ていけよ」
と家の中に入った野良猫を追い出すような感覚で言った。
「でも私行くところがない」
「そんな事知るか。とにかく出ていけ」
「何故助けてくれたの……そのまま死ぬのに任せておけばよかったのに」
「まず、ドアが汚れる。俺が作ったお気に入りのドアだ。それが汚れるのが気持ち悪いのが一つ。お前が死ぬまで待って衛生局を待つのが面倒だったのが一つ。何しろ昨夜飲んで眠たかったからな。最後が、俺が警官だからだ。警官は困っている人間を助けるように、一応はなっている」
「貴方が警官……」
「そうだ。女に全く嫌われてるケイス・ウォルシュだ」
「……あの殴る警官……」
「判ったらさっさと出ていけ」
「まって、家事でも何でもする、だから此処において」
「残念だな、おれはお前を全く信用していない。だからそんな取引はできない」
「もう一つやれることが有るわ。私、貴方のセックスの相手をする。必要なんでしょ」
ぐっと息が詰まる思いがする。それと同時に昨夜小娘を洗っていた時にみた、股間のことを思い出し、ピストルから性衝動が湧き上がってくる。
「セックスの相手ができるか。誰から聞いた」
「街娼が言ってた。ケイスは商売女にも相手にされない。だからインポに違いないって」
ち、そんな噂が立っていたとはな。娼婦共が何と言おうが気にはしないのだが、侮られるような空気が流れるのは問題だ。もっと痛めつける必要があるのか?
しかし、それはしたくないとケイスは思いう。
それはそれとして、
「お前、俺のセックスの相手が出来るのか」
「できる」
「じゃぁ此処で相手をしてやる。バスタオルを外せ」
「うん」
小娘の体は昨夜散々見たはずなのに、体力が少し回復したせいか、皮膚に赤みがさしている。整っている体だが、まだ大人になりきっていない、少女の体だ。
もう二回り大きい胸のほうが好みなんだがな、とケイスは思う。
昨夜も思ったが、小娘の肌は本当に白かった。瀕死だったから白く見えていたわけではない、と今更ながら気が付いた。
顔の造作はいい……もう少ししたら男が寄ってくるようないい女になるだろう。そして、男のあしらい方が巧くなる。
「ベッドに横になれ」
ケイスは自分の声が掠れているのに気が付かなかった。何年、女とやってない?多分最初に殴った頃からだ。
ケイスは小娘とキスをし、とてもとてもキスをし、うなじをキスし、下の方までキスをすると、
ファックした。
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