クソ大魔法帝国

ぶるすぷ

第1話

 魔法が好きだ。

 まだ右も左も分からないような歳の頃、初めて魔法を見て、その瞬間にそう思った。


 詳しい理論とか魔法の使い方とかは知らなかった。

 直感というより確信。運命すら感じた気がした。


 しばらくして、この世界には魔法学校があると知った。

 魔法を専門的に習える学校だ。学校にいる人は全員魔法が使える。先生だけじゃない。生徒も。

 いろんな魔法を見て、学んで、使えるようになって。立派な魔法使いになるための夢のような学校。


 僕が住んでいた国に魔法学校は無い。魔法学校があるのは、大魔法帝国。遠く離れた別の国だ。


 魔法学校に行く! 世界一の魔法使いになる!

 今では恥ずかしくて言えないようなセリフを言った。お父さんにも、お母さんにも、妹にも。多分近所の人にも。


 両親は反対だった。僕も親だったら反対する。大魔法帝国は遠い。しかも危険な国だ。


 それでも魔法使いになるんだと言い続けた。

 それが、僕が小さい頃の話だ。






■□■□■□






 体育館の中に入る。

 人が多い。気を抜いたら他の人とぶつかるかもしれない。


 人を避けながら進んで、一年生の列の一つに並ぶ。

 僕と同じ入学生。知ってる人は誰もいない。


 しばらくすると、ちょっと太った人が、前の方にある壇の上に立った。

 豪華な服を着た貴族っぽい人。校長先生らしい。


 校長先生のあいさつが始まる。当たり障りのない話が延々と続く。


「学生の間で争い事が発生した時、我々教師は手出しをしません。平民も貴族も平等だからです。互いに手を取り合い、共に争いを解決することで成長することを願っています」


 ニコリと笑顔を向けてくる。ちょっと胡散臭うさんくさい笑みに思えた。


 入学式が終わった。自分の教室に向かう。

 学校がとにかく広い。どこが自分の教室なのか分からなくなりそう。


 迷わないように慎重に進む。

 少しして教室に到着する。


「来ましたね。席についてください」


 教室の前の方で立っている男の先生がそう言ってくる。


 みんな席について待っている。座ってないのは僕だけらしい。

 急いで自分の席に着く。


「入学おめでとうございます。担任のルドリクです」


 担任の先生。結構若い人だ。優しそうな顔をしてる。

 白くて少し長めの髪が印象的だ。


「早速ですが、みなさんに自己紹介をしてもらいます。名前と、それから自由に一言、他の人に向けて話してください」


 本当に早速だ。心の準備とか全然できてない。


 クラスメイトが次々と自己紹介していく。

 長々としゃべる人もいれば、本当に一言だけしか言わない人もいる。


 ……隣の席の人が寝てる。机に突っ伏して、爆睡だ。

 ああ、彼の順番来ちゃったよ。

 仕方ない。


 手をのばして、寝てる彼の肩をたたく。


「自己紹介の番、来てるよ」


「ん……? あぁ。さんきゅー」


 むくりと起き上がる。ぼさぼさの茶髪の男子だ。


「ウィン・ステアリーク。よろしく」


 適当だ。

 しかもまた机に突っ伏して寝てる。

 学校っていろんな人がいるんだな。


 また少しして僕の番が来た。


「ソウタです。魔法が好きです。えっと、よろしくお願いします」


 言い終えて席に座るや否や、教室内がざわめいた。


 なぜかひそひそとした声が聞こえてくる。


「……ん?」


 隣の席で寝ていた彼がむくりと起き上がってこっちをじっと見てくる。


「もしかして、お前があのソウタか」


 『あの』ソウタ?


「ええっと、僕はソウタだけど」 


「おお! お前が『千年に一度の劣等種』か。よろしくな!」


 教室がどっと笑いに包まれた。


 楽しげな笑い声とかじゃない。みんな笑顔だけど、いい笑顔ではない。

 どちらかというと、あざ笑うような。


 みんな僕を見て笑ってる。ある人は顔を抑えて控えめに、ある人は遠慮なく大声で。

 あそこのメガネ男子とか、こっちを指差して大笑いしてきてる。

 真面目そうな顔してめちゃくちゃ笑うじゃないか!


「なるほど……」


 要するにだ。僕は有名人らしい。

 多分、いや確実に、めちゃくちゃ悪い意味で。

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