第41話 夜の娘たち 一

 またまれには結婚資金のために、という事情で働く女性もいるらしく、コンスタンスをますますとまどわせた。

「でも、メゾン・クローズにまでは、行きたくない。本職の娼婦にまではなれない人が、てっとりばやく簡単に稼ぐために、こういう場所へ来るの。メゾン・クローズだとそこに住み込むことになるけれど、こういうところなら自由に出入りできるし。法律で決められた年齢になっていなくても働けるしね」

 非合法なのだ。当たり前だとは思いながらコンスタンスは今更ながら緊張してきた。

 自分は今、法律で禁じられている場所にいるのだ。そこで座ってシャンペングラス片手に私娼とおしゃべりしている……。

「あら、どうしたのよ? そんな暗い顔して考えこんじゃって」

「……ちょっと」

「コンスタンス、あんたもここで働くんでしょう? だからカルロスが連れてきたんじゃないの?」

 やはり彼はそういうたぐいの男だったらしい。

 もしかして、とは思っていたが。……それでも、コンスタンスが彼についてきてしまったのは、他に行く場所が思いつかなかったからだ。家に帰る気はしないし、頼っていける親戚も近くにはいないし、いや、ないというより行きづらい。

(ママンがいたら……)

 ふいに、コンスタンスはたまらなく別れた母マリーが恋しくなった。

(ママンさえ、そばにいてくれたら)

 マリーなら自分を中年男に売ろうなどとは死んでも思わないだろうし、まして娼館で働けなど口が裂けても言わないだろう。

 だが、どれほど母が恋しくても、その人とは会えず、その両親、つまり祖父母の家ともつきあいはない。かつて、このことをちらりとアガットに言うと、彼女はあの優しい勿忘草色の瞳を不思議そうにきらめかせた。それは、他の級友たちが時折自分に向ける目だとコンスタンスは気づいていた。

 そうだ、コンスタンスの家は、級友たちの家とくらべて少し違っているのだ。そのことにようやくコンスタンスも気づきはじめていた。経済的にも、彼女たちと足並みがそろわなくなってきたせいか、この違和感はますますコンスタンスの肌に食い込んでくるようにしっかりと迫ってきた。

(もう、学院へも戻れない)

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