第39話 九

 このまま家に帰れなくなるなら、コンスタンスは仕事を見つけなければならない。この家でなにか仕事をさせてもらえるのだろうか。

「この家はね、〝メゾン・ランデヴー〟なのよ。店の名前は『マドレーヌ』というの」

 メゾン・ランデヴー、逢い引きの家――。

 コンスタンスは硬直した。

 お嬢さん育ちのコンスタンスでもメゾン・ランデヴーが何をする所かはわかる。

 メゾン・クローズが公認の娼館なら、メゾン・ランデヴーは非公認の娼館である。なかには警視庁から認可を受けているものもあるが、多くは非認可で営われている。いわば、私娼のつどう娼館である。 

 コンスタンスはつい不気味なものでも見るような目で相手を見てしまった。

「そ、それじゃ、あなた、ここで働いているの?」

「そうよ」 あっけらかんとブリジットは卵型の顔に笑みをうかべて答えた。当然じゃないの、というふうに。

「あなた、幾つなの?」

 コンスタンスは気になっていたことを訊いてみた。

「十五よ」

 コンスタンスより一つ年下だ。よく見ると、化粧こそはしていないが、薄く唇にルージュをひいている。それは、彼女の未成熟さをかえって強調しているようで、ある種の男の気をひくのかもしれないが、コンスタンスにはもちろん不可解なものだ。

「あ、でも客には十四って言っているの。内緒だからね」

 そういう顔は年相応にあどけなく、かえってこちらが困惑してしまう。

「あ、あの、あなた男の人の相手をしているの?」

 自分でも間抜けな質問だと思いながらも、そんなことを訊いてしまい、ブリジットに呆れた顔をされた。

「当たり前でしょう。その為に来てるんだから。あ、でもね、あたしは、本当に気に入った相手じゃないとベッドには行かないのよ」

「で、でも十五歳じゃ駄目なんじゃ……」

 またも間抜けなことを言ってしまうコンスタンスに向かって、ブリジットは、やや怒ったような顔を向けてきた。

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