第37話 七
そう言って笑う顔は魅力的だ。
「わ、わたし、コンスタンス」
コンスタンスがもう少し世慣れていれば、もっと警戒心を持っていたかもしれないが、この夜のコンスタンスは両親や家の問題で動揺しており、行く場所もなく、心が疲れきっていた。
「今から友人同士でちょっとしたパーティーをするんだけれど、良かったら来ないかい?」
もう考える力もなかった。事実、この夜のコンスタンスには帰る場所も行く場所もなかったのだ。
「……ええ」
「いらっしゃいませ。あら、カルロスじゃないの」
「ボン・ソワール、マダム。今日は、僕の新しい友達をつれてきたよ。コンスタンスだ」
「あらあら、それは」
マダムと呼ばれた女性は歳は三十後半……、もしかしたら四十になっていたかもしれないが、黒いドレスを優雅にまとっていて、なかなか魅力的に見える。パリは、当時でも中年の女性にも美人の栄冠を与えてくれる世界にも
「コンスタンス、こちらはマダム・オベール」
「こ、こんばんは」
コンスタンスはおずおずと邸内に入った。
街の大通りからはすこし離れているが、あたりは閑静な住宅街なので、すこし安心していたが、目の前の女性はこれもどう見ても堅気ではない。昔見たモンマルトルの女性にも似ているし、エマとも雰囲気が似ている。後ろで結いあげているブルネットの髪はカルロスと同じだ。細面の顔立ちもどことなく似ており、いぶかしんでいるコンスタンスにカルロスが小声で「親戚なんだ」と囁いた。
「まぁ、可愛いお嬢さんだとこと。どうぞ。カルロス、あんたも、こっちへいらっしゃい。シャンパンでいいかしら? そちらのお嬢さんは?」
「あ、あの、同じでいいです」
「コンスタンスは女学院の生徒なんだよ」
「あら、学生さん?」
そこでマダムのブラックオニキスのような黒目が、妖しく光ったのをコンスタンスは感じとった。
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