第33話 三
「パパ、どうして家に帰ってこないの?」
「……仕事が忙しくてね」
「エマだって……、心配しているわ」
嘘だということはすぐわかったらしい。デュホールは苦く笑った。
「あの家はもう私の家じゃないんだ」
「なに言っているのよ?」
彼の瞳はひどく
「……コンスタンス、どうしたんだい? ここへ来た事情は何なんだい?」
冷めた言い方をされ、コンスタンスは胸が痛んだが、それでもこんなことを訴えられるのは父しかいない。先ほどの事態を説明した。
「……ひどいのよ、エマは」
父もこれで目を覚ますかもしれないとコンスタンスは期待した。エマと別れて、母とやりなおす気になるかもしれない。そうすれば、すべて良くなるかもしれない。
だが、父の言葉はコンスタンスの淡い期待を踏みにじるものだった。
「それが……いいかもしれないな」
コンスタンスは絶句していた。
「エマがそうするのは、おまえのこれからのことを考えてだろう」
「な、なに言ってるのよ、パパ?」
コンスタンスは驚きのあまり息が苦しくなった。何を言っているのか、父はわかっているのだろうか。
「どのみち……」
そこでデュホールは溜息を吐いた。酒の臭いがコンスタンスの眉をまたしかめさせる。
「もう私にはおまえを学院にやってやることは出来ないし……。第一、おまえ、停学処分になったんだろう? 事務所へ校長からの手紙が来たよ」
「そ、それは……」
どうやら自宅ではなく、父親の職場へ校長は手紙を送っていたらしい。父は酒の匂いとともに溜息を放った。それには諦めがこもっている。
「なぁ、コンスタンス、もう学院を辞めて、働いてくれないか? そのニール氏の世話になれば、今以上に贅沢な生活ができるかもしれないよ」
コンスタンスは言われた言葉が理解できなくなった。
「パパ、頭がどうかしちゃったんじゃないの?」
デュホールはまた溜息を吐く。
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