第18話 五

 破産寸前の父と、もと売春婦の継母――。

 恥辱のあまり、コンスタンスはスカートの膝うえで両こぶしをにぎりしめた。すぐそばでアガットが泣きそうな顔をしている。背後では、ペリーヌのとりまき二人がにやにやと笑っている。

「大変ねぇ。実のお母様は家を出られたんでしょう? それも、よそに男をつくって」

 ペリーヌがさらに悪意をこめて言葉をはなった。アンヌが、これもわざとらしく黒い眉をあげて、同じく黒目を見開きさけぶ。

「ええ! そうだったの?」

 コンスタンスは怒りのあまり頭から煙が出そうになった。

「ちがうわよ! でたらめ言わないで! わたしのママンのことなんて何も知らないくせに!」

 コンスタンスはベンチから立ちあがって、ペリーヌに怒鳴りつけていた。他のことはどうあれ、愛する母マリーを侮辱されることだけは耐えられない。

 さすがにコンスタンスの権幕けんまくに一瞬ひるんだペリーヌだが、唇からは毒のような言葉がほとぼしる。

「あーら、あなた知らなかったのぉ? あなたのお母様、他の男性と会っていて、警察につかまって家を出られたのよ」

「嘘ぉ」

 アンナがいっそう驚いた顔をする。もう一人のとりまきのジャンヌも手を口にあてて、びっくりした顔をしている。

「嘘よ! でたらめよ!」

 コンスタンスの声に狼狽を感じ取ったのか、ペリーヌは勝ち誇った顔をそらした。おだやかな黄金の木漏れ日のなかで、悪意にきらめく青い目が不敵にかがやく。

「嘘じゃないわよ。本当に知らなかったの? 公園で若い男性と逢い引きしていたのを警察につかまったのよ。その警察署長は父の学生時代の友人で、たまたま私の家でお茶を飲んでいるとき、そんな話が出たのよ、きゃっ!」

 コンスタンスはペリーヌにつかみかかっていた。

 彼女の雀斑そばかすの浮かぶ頬を殴っていた。一度では気がすまない。二度、三度。

「やめてよ、やめて!」

 側にいるとりまきたちはびっくりして見ている。しょせん、多少気が強く性悪でも、お嬢様育ちである。ペリーヌは泣きだしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る