転生したら乙女ゲームの伯爵令嬢だったので ~ドラゴンと一緒に世界を救いたいと思います!~
柚子猫
幼少期編
第1話 お嬢様と星降りの夜
草原の丘の上に一人座って、空を見上げていた。
夜風が思いがけないほど冷くて、思わずマフラーに顔を埋める。
真っ暗な夜空に、やがて星が流れ始めた。
それらは空一面に広がり、無数の光の帯を描き出きだす。
流れ星からキラキラと魔力が降り注ぎ、地上を明るく照らしている。
「……すごくキレイ」
夜空に流れる流星群は、すごく綺麗で。
でもなんだろう?
この光景をどこかで知っている気がしていた。
「みてみて、おねえちゃん。このシーン、キレイだね」
ふと女の子の声を思い出す。
……お姉ちゃん?
……お姉ちゃんって誰のこと?
私には、妹なんてないのに。
「クレナ様ー!」
「お嬢様、どちらにいらっしゃいますかー!」
遠くの屋敷から、私を呼ぶ声が聞こえる。
呼ばれてる。
帰らなきゃ。
急いで立ち上がり、屋敷の方に振り返ると、急に視界が暗くなる。
「え? あれ?」
自分の意識が遠のいていくのが分かった。
「……クレナ? ……って誰だっけ?」
************
(「お姉ちゃん起きてよー」)
(「朝ご飯早く食べてくれないと片付かないよ」)
ごめん、昨日は仕事で遅かったから、もう少し寝かせて欲しいんだけど。
(「どうせ、ゲームのやりすぎでしょ! もう七時だからね!」)
あのね、遅くまで仕事をしてきたんだからね、お姉ちゃんは。
おまけに今日、土曜日だから!
(「ねぇ、お姉ちゃんってば! あんまり起きないなら、朝食抜きだからね!」)
もう、容赦ないんだから。
「わかった、起きるから!」
仕方ない。返事をして、重たい目を開ける。
目の前に飛び込んできた景色は、見慣れない天井だった。
おまけに、ベッドには大きな天蓋がついてる。
「え? ここ……どこ?」
思わず声をあげる。
「……んん?」
なんだろう、この違和感。
さっき自分が出した声は、子供特有の高い声。
手足もすごく縮んだような気がする。
「クレナ様!」
「よかった、目が覚めましたね」
ベッドから起き上がった私は、メイド服を着た女性たちに囲まれていた。
なんだこれ。
うーん……夢?
私にこんな願望があったなんて知らなかったなぁ。
うーん、それしても。
メイド服姿が、私の知ってるアニメやメイドカフェの感じとちょっと違うような。
スカートの丈が長くてリアルというか実用的というか?
ぼーっとしていると、眼鏡をかけた黒髪メイド姿の女性が、心配そうな顔をして顔を近づけてきた。
「覚えてらっしゃいますか?」
「え? なにを?」
「クレナ様は、星降りの夜にお一人でお出かけになり、丘でお倒れになっていたんですよ」
星降りの夜?
星降り……
そうそう、そうだよね!
昨日の夜は、一年で一番流れ星が見れる『星降りの夜』。
屋敷の窓からも流れ星は見えるけど。
でも、あの綺麗な景色を窓越しではなく、直接眺めたらどんな気持ちになるか、どうしても知りたくて。
こっそり抜け出して、星の見える丘に行ったんだった。
って。
いやいやいやいや。
待って。
なに、この記憶!
「クレナ様? 大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫……」
心配そうに話かけてくる、眼鏡をかけた黒髪の綺麗な顔立ちのこの女性。
この人のことは知っている。
メイド長のセーラ……だ。
生まれた時からずっと一緒にいてくれている、優しいお姉さん。
って。
なんで知ってるんだろう。会ったこともないはずなのに。
「クレナ様?」
セーラが、おでこに手を当ててくる。
「まだ少しお熱があるようですね、お薬を飲んで寝ましょうね」
セーラに薬を飲ませてもらい、またベッドに横になる。
ふー。
一回大きく深呼吸。
冷静に考えよう。
まず、ここは何処?
ベッドに寝たまま、首を動かして周りを見渡してみる。
ピンクと白を基調とした、ハートがいっぱいの家具で統一された部屋。
窓には部屋のイメージにぴったりの花が飾られている。これもピンクと白。
床には白いクマのぬいぐるみが転がっているのが見えた。
空気の入れ替えの為だろうか、少しだけ開けている窓から澄んだ空気が流れてくる。
なんでだろう。見慣れた風景だという感覚がする。
……そうだ、ここは自分の部屋だ。
じゃあ、自分は誰?
両手をじっと見つめてみる。白くて小さな子供の手だ。
そして、可愛らしい子供の声。
少しづつ記憶が鮮明になってくる。
思い出してきた。いや、思い出したというよりも、知っているという感覚に近い気がする。
私は、クレナ・ハルセルト。
もうじき九歳になる、地方領主ハルセルト伯爵の一人娘だ。
「やはりお熱の影響があるのでしょうか」
黙り込んだ姿に不安になったのか、心配そうな顔のメイド達。
あれ? でもじゃあ、しごと? げーむ? いもうとって何?
……ダメだ、記憶が混乱してて考えがまとまらない。
「クレナ様、大丈夫ですか?」
「旦那様に報告しなくては」
「急いで、氷枕の替えを持ってきて!」
「えーと……ごめんなさい、一人にしてもらってもいいですか」
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