第3話 不帰の客

 はいはい~。遺跡地帯にやって来ました。なんちゃってマチュピチュみたいな感じ。


 標高の高い枯れた野原の中に遺跡が残っている、そんな感じだ。


 足元にゴロゴロと廃墟の崩れた石が転がっている。


 


「今日はここで泊まりですね」


 ムーランの一言でここで休むことに決まり。


「ここでは強い魔物が出ます。用心してください。今まで討伐完了出来た者はいません。一応ギルドで依頼を請け負ってきていますので、済んだら討伐料も頂けますよ」


 俄然んヤル気出た。


「先に浄化しておこうかな、泊まるならその方がいいんじゃない?」


 そこに来るまでも、あちらこちらを浄化して回っている。あの、うさんくさい呪文?ぽいのを言いながらやると、シオウが喜ぶので、はりきってやっている。


  ここに登る前に、手前の街で色々買い物して来た。薬もいっぱい売って来たんだよ。


 ムーランが、ギルドで依頼を選別して適当に受けてくれているのでやりやすい。


「浄化は必要ですが、討伐は夜に行います。それにここは珍しい薬草もありますから、あとで一緒に見て回りましょう」


 そう、今更だけど薬づくりはムーランに習ったので、お師匠様なのだ。


「ムーランどんな薬草?」


「魔力を強める薬草や、上級ポーションの材料になる薬草です」


「高く売れそう」


「高いか安いかで目の輝きが違いますね」


「採って、採って、とりまくろう」


「ココ、お手伝いします」


 アスランテが優しくそう言った。


「うん。いっぱい採れたらいいな」


 顔を見合わせて二人で笑う。


「なんか、いたたまれませんが」


「なにが?」


「いいえ、仲がよろしいのは良い事です」


「うん」


 その後は、天上の枯れ地を散策して回った。枯草の靡く地で、珍しい薬草は不思議にも息づいていて、地面から苔をこそげ採るような風にして、採取して回った。


 ハンターとヤトも廃墟を見て回り、周りの状況を調べていた。


「遺跡のあちこちに刀傷が付いていて気味が悪ぃな」


「それも結構新しいときている」


 二人が首を傾げている。



 それから皆で遺跡群の中にテントを張った。石の壁が残っているので風雨をしのぎやすい。


 枯れた下草が風に靡いて流れるようにうねって行くのがどこまでも遠くまで見える。


 今は6人で来ているのでワイワイやってるけど、もし一人でここに来たら世界にポツンととり残されたような気分になるかもしれないと思った。


 テントを張った遺跡の中には松明を灯した。


「ここに出る魔物は、『不帰の客』と呼ばれているようです」


「えーと『不帰の客』ってナニ?」


「そのままの意味ならば、生きていない人、という意味です」


「えーっ、なんか嫌な感じ」


 

 夜になるとビュービューと風が強くなって来た。


「そろそろ来そうですね」


 テントを張っている場所には、強い結界をアスランテとムーランが張ってくれているので影響はなかったけど、


 そこ以外はまるで暗闇に飲み込まれてしまったかの様なカオス的別空間状態だ。


 なんか、おどろおどろしい感じが高まってきた。シオウはハンターの脚にしがみついている。


 そこにもってきて、ガシャン、ガシャンと金属のぶつかる様な音が聞こえて来た。


「囲まれたようですね。ココは浄化をいつでもかけられる様に、気持ちの準備が必要ですよ」


「りょかい。これはさあ、やっぱアンデッド系だよね・・・」


「骨人(スケルトン)の甲冑が鳴る音です」


「やっぱり・・・」


 結界のすぐ傍の松明の届く辺りには、ボロボロの古い甲冑を付けた骨人(スケルトン)が歩き回ってるのが見える。


「ものすごい数だな。こりゃリッチがいるな」


「魔石が沢山採れそうだが、これはかなり大変だぞ」


 ヤトとハンターの会話に耳がピクリとなる。


「リッチってなんだっけ?」


「一言でいうのは難しいですが、死ぬ前は高位の魔法使いや僧侶だった者で、死霊魔法を操ります。知能が高いので厄介ですよ。この者達の親玉みたいな存在ですね」


 ムーランの言葉に、アスランテが頷いている。


「なんて数の骨人達・・・。こんな古い時代の死者をいつまでもここに繋ぎ止めるなんて許せない。浄化するよ」


 私は両手を上げて天を突き上げるように腕を伸ばした。


「もう死んでいる者達を起こすな!眠れ、樹々の安らぎをここに!」


 突然外の嵐の様な風が止んで、草しか生えていなかった地にいきなり樹々が天に向かう様にそそり立ち始めた。


 その樹々からきらきらと、花びらが舞う様に光の粒が舞い降りて来て、骨人達の上に降り積もる。


 目玉すら無い眼窩(がんか)で空を不思議そうに見上げる。


 雪が溶けて染み込むように骨人達に光が積もり、リッチと呼ばれる衣服を身に着けたミイラの様な者を残し、全てが消え去った。


「残りはお前、お前も休め」


 リッチは、私の足元から伸びた鋭い蔓に干からびた身体中を貫かれ、塵となって消える。


 大きな紅い魔石がそこに転がった。




 朝になると、昨日の事が嘘の様に晴れ渡った空があった。


 一帯に森が出来て、緑に輝く野原に蝶が舞っている。小鳥のさえずり、柔らかい風。


 空気までもが、甘く芳しい。


 

 その辺に散らばった薄桃色のスケルトンから落ちた魔石を拾い集めて、ハンターがウホウホしている。


「すごいなあこりゃ、ひと財産あるぞ、それに昨日のリッチの魔石、凄かったなあ。あんなの初めて見た」


「ココのリュックが無かったら、持ちきれなかったな」


 シオウは魔石拾いが楽しいらしくて、大喜びだ。


「次のギルドで換金しよう。討伐料も貰わなきゃね。へへへ。皆で山分けだ」


「やまわけ、やまわけ、へへへ」←シオウ


「シオウも言葉をだいぶ流暢に話すようになってきたね~」


「もう少し、綺麗な言葉を教えたいですね。困ったものです。ココも子供の教育をしているのだと自覚してください」


 はい、今日も朝からムーランに指導を受けました。まる。


 

 





 


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