第四章
第1話 雨の宿屋にて
ここに来て、雨が三日も降り続いている。
今はトアルという街の宿屋にいて、薬を作ったり、釣竿を手入れしたり、色々と普段出来なかった事なんかをやってる。。
雨の音は好き。静かでとても落ち着く。雨の匂いも好き。
あれから、アスランテが傍に居てくれてこそばゆいけど、でも嬉しい。
白いモフモフが触りたくなったら、アスランテの頭をモフモフさせて貰う。
敷物に胡坐をかいて座り、さあどうぞ、と言われたので遠慮なくモフモフさせて貰った。
シャンプーしてるみたい。クス。
手触りも白い精霊さんと同じだ。好きなだけ触っていいって言われた。
そうして、モフモフしていると、純白の髪の隙間から、優しいアイスブルーの瞳と目が合う。
アイスブルーって寒色なのに、すごく優しい目だ。
そして、このモフモフ感と、シオウのモフモフ感はまた違うのだ。
泊まっている宿屋は、ご飯がおいしい。それにこの辺りは温泉があちこちに沸いているので、宿屋にもタダの露店風呂があって、いつでも入れる。
シオウはお湯に浸かるのは好きじゃない。獣人は冬じゃなければお水の方がいいんだって。
女性用は風呂の周りに囲いがしてあるので、平気なんだけど、アスランテが必ず外で番をしてくれている。
大丈夫だと言っても、心配だから外にいると言われた。風呂の傍に東屋が作られているからそこで待っててくれる。温泉は、雨降ってても入りたいんだよね。なんか申し訳ない。
この宿では温泉卵を作って売っている。ヒポポ鳥のヒポポ温泉卵。鶏の卵の1.5倍くらいあってデカい。
温泉から出たら、ヒポポ温泉卵をアスランテと宿屋の食堂で食べた。
「んまいう~」
黄身が半熟でこってりと濃厚。木の匙で掬ってちゅるんと食べる。
甘じょっぱいタレがかけられていて、ほんっと美味しい。10個くらいぺろっといっちゃいそうだ・・・。
温泉卵って飲み物なんですよ・・・的な。
その辺でコンコンして、割って木の椀に中身を落とすと、とろんとした白身と半熟の黄身が綺麗に出て来る。
アスランテも匙で掬って、美味しそうにニコニコして食べている。
「アスランテは、黄身と白身どっちが好き?」
「どちらも好きですが、一緒にたべるとより旨い。ココと一緒だともっと美味しく感じますよ」
「本当だね―私も―」
と、たいてい、どうでもいい話をしているのだけど、それでも楽しい。
ここは、火山性の温泉で、まあ、地下にはマントルがあるのだろうと思われるが、そんなこたあどうでも良かった。
因みに地震はないのかと聞いて見たが、ないとの事だった。日本人なので、地震だとかとても気になるのだ。
宿代は全部アスランテとムーランが支払ってくれるそうだ。大船に乗っているつもりだ。
三賢人は気にするのがアホらしくなるほどのお金持ちなので、
「ありがとー」
と明るくお礼を言って任せている。
でも、薬草でお小遣い稼ぎはやめないよ。自分が欲しい物はそれで買うのがいいんだから。
雨が降っているので足止めされているけど、丁度、シオウが体調を崩しているようなので休む事に専念した。
体調を崩しているというよりも、とにかく眠いらしいのだ。そういうと、ハンターとヤトが、もしかしたらシオウの状態は、獣人の第二段階成長なのかもしれないと言われた。
第二段階成長が来ると、人化して、第三段階成長で、どちらにでも変化出来る様になるみたいだ。
時期は種族によって異なるので、はっきりとは分からないそうだ。
とにかくよく寝る。食べては寝る。ずっと寝る・・・。って感じ。
ついに5日目の朝、雨が止んで、朝日がさしているのに気が付いた。
寝床の木のベッドの頭の所にシオウの寝床を作っていたんだけど、猫のシオウじゃなくて五歳位の子供が隣で寝ていた。
「おわあ、かっわいい。天使」
金髪天使が寝ていた。女の子じゃないかと思う程の天使さ加減だ。
ああ、ついにシオウがヒト化したんだなと思った。
ぷにぷにの頬に頬に影を落とす長い睫毛、やわらかそうな小さい手をしている。
「そうだ、服買って来ないといけないね」
人の形になったシオウは、やっぱり眠いらしくて寝ている。目を開くとやはり、シオウのアメトリンの瞳だった。
もうしばらく人の身体が馴染むまでゆっくりさせた方が良いと、獣人の二人に言われてそうする事にした。
シオウは、ハンターとヤトが見てくれるというので、子供の物を揃えに街に出てみることにした。
アスランテとムーランと三人で町を歩く。ムーランは町を観察に行きたいと言っていたので一緒に歩いている。
宿屋で聞いて子供用の服が置いてある店を目指した。
「私は、ギルドで最近の各地の情報を仕入れて来ますから、貴方たちはシオウの服を買って来て下さい」
「わかった―」
「それと、アスランテが付いているので、まず大丈夫だと思いますが、――――ココ、貴女が誰かに召喚されたのだとしたら、かなりの危険が残っていると思わなくてはなりませんよ」
「あ・・・」
「たまたま時空を超えることなど、普通はありませんからね」
至極当たり前の事をムーランに指摘されて、自分のバカさ加減に呆れた。
「そうだった。浮かれてた。気を付ける・・・」
「ええ、お願いします。貴女に何かあれば、その白いのは死んでしまいますよ。シオウだってそうです」
「う、うん」
これはなんて怖さだろう・・・。
―――今まで何も持ってなかったのに、気付くといっぱい大切なものが出来てた。
めっちゃ怖い。なくすのが怖い。
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