第2話 旅の仲間

 街はずれの宿屋は古いけど部屋は広めだし、すぐ裏が森になっていて解放感のある落ち着いた宿屋だった。


 息子夫婦と年寄り夫婦の二世帯が切り盛りしているのんびりした雰囲気も良かった。


 三階建ての宿屋の一階にある一番小さい部屋を頼んだ。


 簡素なベッドがおいてあるだけの部屋だけど十分だ。まず、私のシャツにくるんだままベッドの上に猫をそっと降ろした。


「にゃーん」


「よしよし、いいこ。宿屋についたからゆっくり寝るんだよ。明日はまたここを発たないといけないからね。ちょっといろいろ街の様子を見て来るから。そうだ、猫ちゃんが良かったらこれからの旅の相棒になってくれる?」


「にゃおーん」


 なんか、『いいよ』って言われた気がした。あこがれのお猫様を人生初、お迎えした。


 出会いっていうのは必然っていうしね。縁があったのだろう。


「そうだ、名前を付けてあげなきゃ」


 そうだ、このにゃんこの瞳は、紫水晶と黄水晶の半々になっているような美しい色をしている。


これって『アメトリン』そっくりだ。アメトリンって和名が『紫黄水晶』(シオウスイショウ)とよばれる。


 確か、パワーストーンの本に、天然のアメトリンが採掘される鉱脈は世界でたった一つしかないという希少な物だった。お店で売られているのは、ほとんどが人工的に熱処理され作られた物だという。


 だけど、この子の瞳は天然物だね。ものすっごい綺麗。見つめていると引き込まれそうだ。


「にゃーん」


「よしよし、じゃあ、『シオウ』って呼ぶよ。私の世界の宝石の名前だよ。さて、薬の材料とかも採って来ないといけないし、ちょっと出て来るね」


 この猫は、♂だった。そりゃ見たらわかるでしょ。



 エルフ村を出てから、二日経つって事は、結界が開放されたという事だから、あそこに『緑の巫女姫』がいた事が分かってしまったはずだ。そうしたら、次の街はこの街しかないので、必然的にここにいると思われるはずだ。


 エルフのローブのおかげで普段の三倍の移動距離を稼げているけど、安心は出来ないから次の街へ明日には向かいたい。


 ここからは、今度は五方向に道が分かれるから、運が良ければ上手く姿をくらますことが出来るはずだ。


 この国の人を自分の持っている能力で助ける事は嫌じゃない。だけどベリン国の王族の為に働かされるのは御免だ。


 ベリン国の王族のクソ度だと何をさせられるか分かったものじゃない。信用なんかできない。


 二度目のこの世界では、自分が好きな様に過ごす。誰にも邪魔はさせない。そう決めている。


 まずは寂しい一人旅の仲間にかわいい子猫ちゃんが加わった。チャララーン。なんか気分が上がってきた。


 次は5つの街の選択肢からどの街に行くか考えよう。


 今度の街では少しゆっくりして、何か仕事をしたいと思っている。


 前のギルドで報奨金をかなり貰っているので、当面お金に困る事はないけれど、お金はいくら持っていても重くない。


 お金大事。絶対大事。


 私は森の中で直ぐに猫ちゃんを治す傷用の薬草を見つけた。植物に関しては得意分野だ。野生の感が生かせる。


『ムッ!これだ!』と思った時は間違いなく欲しい薬草がそこにあるという能力。


『アッ!これだ』でも可。まあ、なんでもいいんだけどね。


 薬草に関しては、前の七年でかなり勉強させられた。


 この二度目の召喚では、前の経験を生かして、かなり生きやすくなっている。


 なんなら、薬局でも開ける位だ。だけどさ、固定で住むわけでもないし、薬売りってのも・・・。


 そうか!エルフに貰ったリュックがあるから、薬売りは出来る。


 〇〇の薬売り的な・・・うむ。薬箱を担がなくていいからすごい、いい。


 薬はこっちの世界ではとても貴重だから、ちょっとした簡単な薬を作って持っておけば、小遣い稼ぎは出来るんだ。


「それ、いいかも!」


 安定の大きな声で独り言をいいながら、宿屋に戻った。


『シオウ』の傷薬用の薬草を多めに採ってきた。沢山作っておけば旅でも安心だ。


「にゃーん」


「起きてたんだ。どうかな?お腹すいてたら『おかゆ』作ろうか?」


「にゃーん」


「よしよし、まっててね」


 前に作ってあげたのと同じものを作る。それをシオウは美味しそうに食べた。食欲はあるし大丈夫そうだ。


 こっちの世界には米がある。タイ米のように細長い米で、パラパラしている。チャーハンにしたり、山菜に味を付けて炊いた物と混ぜご飯にしたりして、握り飯にして食べたりもする。


 宿屋のご飯の握り飯を二個貰ってから部屋に帰った。大きな葉に包まれている。もちろん宿屋の食堂でも別料金で食べる事が出来るけど、シオウと一緒に食べたかったのだ。


「シオウは、もっと元気になったら、タンパク質たくさん取らなきゃね」


「にゃーん」


 返事をしてくれる相手がいるというのはいいもんだ。私はとても幸せだった。


 シオウがもう少し元気になったら、身体を洗ってあげたい。今は傷と汚れと、塗り薬で酷い有様だった。


 毛の色さえよく分からない程だ。茶色っぽくて模様があるようにも見える。


 まあ、何色でもいいんだけど。


 ごはんを食べたら、シオウの傷を診て、新しい薬を塗布した。街で安い生成りの布をいくらか買ってきたので、清潔な布を包帯にしてやる事が出来た。


「今日はベッドで眠れるけど、明日からはまた野宿かな。お休みシオウ」


 枕元にシオウの寝床を作ってやって、一緒に眠った。


 


 


 

 

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