第67話 腹の虫鳴く夕方
ぐぅ~ー。
「百合香ちゃん、お腹減った?」
巨大な腹の虫が唸り声を上げた。それが聞こえたのは、俺の斜め下にある小さなお腹からだ。
「……」
顔が赤くなり、意味もなくまばたきを繰り返す美少女JK。
「
なおも赤い顔。全然肌色に戻らない。
「ま、まさか熱が⁉ 病院へ行くぞ!」
「違います!」
腕をぶんっと下に振り下ろし、反動で腕に付けていたヘアゴムが上下する。
「私、お腹減ってないです!」
「……」
すぐにバレる嘘を堂々と恥ずかしげもなくつくなんて。
「いろいろあったからメシ食ってなかったな。ごめん」
「お腹減ってないで……」
ぐぅ~~……
「その音は、お腹減ってる音じゃないのか?」
「違います。これは、ええと、その……アレです!」
最高の言い訳を思いついた、みたいな顔。目がキラキラしている。
「アレって何」
「……ええと、ですね、ええーと…………」
考えてなかったようだ。無意識下で否定しただけだったらしい。
ちなみにセブンカナブンは聖地であり、すでに写真を何枚も撮影した。
川島
ちなみに、マクドナルデ
内部を撮影するのは迷惑だから不可能だが、外観くらいは撮ってもいいはずだ。早く行って撮影したいし、俺も正直腹が減ってヤバいから何か食べたい。
「私、お腹にユーフォニアム入れてるんです!」
バカげた百合香ちゃんが、何か言っている。
「きゃっ」
「俺も腹が減ったから早く行くぞ」
おんぶして、下り坂をせかせか下る。また転ばないように、細心の注意を払って早歩きで進む。
「下ろしてください! は、恥ずかしいっ」
「何言ってるんだ今更。俺に抱きついて寝てるくせに」
百合香ちゃんは毎日、俺の布団に潜り込んでいる。「寝れない」とか言って、毎日眠れないわけでもないだろうに、夜な夜な俺の家に(チャイムも押さず、不法侵入で)入り込む。何度もびっくりしたが、最近は慣れた。
「それ言っちゃダメです! 反則! 卑怯者!」
「不法侵入者に言われたかないね。さあ行くぞ!」
「きゃああああああ…………」
夕方。日がだいぶ傾いている。
今日は祭りらしいから、歩く人の数も多い。
「なにかしらあれ」「背負ってるわね」「男、馬やん」「男、何歳?」「25くらいちゃう?」「え、JK連れてるけどOKなん?」「いとことか?」「妹?」「ならいいのか」「いやよくねえよ、羨ましいから」「あんなゴミみたいな男にあんな美少女を背負う権利なんて、憲法違反ですぞっ」「そうである! 彼を射殺すべきなのだ!」
やばい。なんか目立ってる。
ここは聖地。ごく普通の思考をお持ちであろう地元住民でさえ俺たちを不審がるのだから、一部のヒネくれた巡礼野郎にとってはもっと気に障るだろう。
逃げねば。
「お兄さん下ろして!」
「だめだ、逃げねば!」
「何言ってるんですか、お兄さんが遅いから言ってるんです!」
「なる、ほど」
百合香ちゃんをゆっくり下ろす。もし適当に下ろしたら、つまづいて後頭部を強打→病院搬送→賠償請求ということになるかもしれない。慎重に、ゆっくり下ろす。
「あっ、スリッパが脱げたっ」
「ぐぅぅ、何やってんだ百合香ちゃん」
ただでさえ人の目を集めてるのに、スリッパが脱げるだなんて。
「あの子、スリッパ脱げてるわ」「靴も買えないのかしら」「かわいそうに」
やばい、なんか変な目で見られてる。すごく逃げたい。今すぐ逃げたい。
「きゃっ」
「やっぱり背負う! スリッパで走ったら危ないから!」
ジタバタもがく美少女JKを強制的に背中に乗せる。脚を、もがけないようにロックする。
「さっき走った時は大丈夫でした! お兄さんは転んだけど、私は転ばなかった!」
た、確かに。むしろ運動靴を履いてる俺が転倒してた。
「あれは偶然だ。摩擦係数の異常だ。だぁあぁあ!」
「きゃあああああ!」
とにかく走れ! 目指すはマクドナルデ
風が気持ちいい。風を切って進んでる。
聖地に向かって突進している。
聖地が俺たちを呼んでいる。
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