グラドル戦隊グラドルレンジャーズ
青キング(Aoking)
プロローグ
絹を引き裂くような女の子の悲鳴が、日の落ちた宵の児童公園に響く。
尻もちをついたまま恐怖で立てない女の子の胴体に、蛇頭の手が翳される。
「ぐへへ、俺と一緒に来てもらおうか」
両手が蛇頭の二本足で立つ全身に鱗を纏った怪人が、恐がる女の子ににじり寄っている。
女の子は腰に力の入らぬまま、身体を後ろに引きずる。
怪人は蛇らしい大きな口を開けて笑った。
「おとなしく、巻きつかれるんだな」
蛇頭の手が長く伸び生きているようにうねると、女の子の胴体に迫る。
「そこまでよ!」
公園中に鋭い女性の声が響き渡った。
「この声は、まさか」
怪人は蛇頭の手を止めて、途端に周辺を警戒する。
「どこを見ているの、こっちよ」
怪人は頭上からの声に振り仰ぐ。
胸の真ん中に赤いハートを飾った赤いワンピース型の水着を着た女性が、滑り台の最も高いところに立ち、怪人を見下ろしていた。
怪人が憎ましげに女性に蛇頭の手を向ける。
「お前はグラビアレンジャー!」
「グラビア~、レッド」
腰に手を当てたポーズをとる。
グラビアレッドの後ろから、同型のワンピース水着の青いのを着た女性が姿を現す。
「グラビア~、ブルー」
覇気のない声で胸の前で腕を交差させる。
「グラビア~、イエロー」
グラビアレッドの背後から出てきて、選手宣誓みたいに片手を真っすぐ上げる。同型の水着で今度は黄色い。
「グラビア~、グリーン」
グラビアイエローの隣からフェンシングのようなポーズで登場する。これまた同型の水着で緑色。
「グラビア~、パープル」
ボクシングに似たポーズで横に並ぶ。またまた同型の水着で色は紫。
五人が名乗ったところで、レッドがポーズをといて怪人を指さす。
「怪人ロリコンダ。女の子から離れなさい」
「何をほざく。このロリコンダ様に攫えぬ女児などいぬのだ。女の子を助けたくば、俺様と勝負しろ」
怪人の恥ずかしげのない台詞に、レッドは背筋に悪寒を走らせる。
「うわあ、気持ち悪い。さっさと片づけてしまいましょ」
「グラドルレンジャー、俺様の攻撃を喰らえ!」
「ちょちょ、待って」
怪人が片方の手を引いて蛇頭を突き出すのを、レッドが慌てて制した。
怪人は手を引いた状態で問い返す。
「なんだ」
「滑り台からすぐ下りるから、それまで攻撃しないで」
「……早くしろよ」
怪人は心広く申し出を諾した。
レッドは四人の仲間を振り返り指示する。
「みんな、滑り台から下りましょ」
レッド以外の四人は無言で頷き、各自近い順に滑り台を滑って地面に降りていく。
「おい、まだか?」
二人目のイエローが降りている最中に、怪人が尋ねた。
「あと三人だから」
レッドが怪人の方を見もせず答える。
「……そうか」
怪人は痺れを切らして襲いかかることはなく聞き入れた。
四人目のブルーが滑りきって立ち上がったところで、またしても怪人は尋ねる。
「おい、どれだけ待たせる気なんだ?」
さっきより少し怒気を含ませた問いにも、レッドは平然として、
「あとは私だけだから」
と滑り台の坂に足を伸ばしながら返した。
五人全員が滑り台から下りて横一列に並ぶと、やっと臨戦の構えを取る。
怪人が蛇頭の手を引いて攻撃の態勢に入る。
「ようやく戦闘に入れる。グラビアレンジャー、お前達をこの手で巻き……」
「必殺……」
中央に立つレッドが片手を銃の形で怪人に向ける。ブルー、イエロー、グリーン、パープルも同様に怪人に照準する。
「「「「「グラドルショット!」」」」」
五人揃って叫び、指先から水着と同じ色の光弾が発射された。
「喰らえ、え、マジ、ズル、ギャアアアアアアアア」
攻撃を仕掛けようと怪人が手を突き出した時には、彼の眼前に五つの光弾が迫っていた。
光弾は一つに収斂し、怪人の胸に目掛けて射出され直撃した。
怪人は胸を押さえながら倒れ伏し、跡形も残さず泡沫となって爆発した。
怪人に攫われかけた女の子は、現実ではないものを見るように自分の前で起きた戦闘を眺めていた。
必殺技の構えを解いたレッドが、少女に歩み寄り微笑みかけた。
「もう安心していいよ、変な奴はやっつけたから。ケガはなかった?」
うん、と女の子は状況の理解が追いつかず、頷き返すことしかできなかった。
「なら良かった」
レッドは女の子に傷のないのを知るとそう言って、仲間の四人の方に顔を戻した。
「みんな、帰ろう」
レッドが促すと、四人は何の言葉を返すでもなく公園の出口に歩き出した。レッドも後に続く。
ブルーは一仕事終えたっぽく、肩を回す。
「ああ、これでまた報酬金で打ちにいけるぜ」
「また打ちにいくんですか。お金なくなっちゃいますよ」
イエローがブルーを心配して言った。
「イエロー、心配したって無駄よ。ブルーは依存症も同然だから」
グリーンが呆れたようにけなす。
「これで映画の続きが観られるわ」
パープルは中断してきた映画の展開に思いを馳せる。
「お風呂、冷めちゃっただろうなあ」
レッドは自宅の湯船のお湯が冷たくなったであろうことに、少し気を落とす。
五人のレンジャーが口々に喋りながら公園を去っていく。
しばらくして女の子がお礼を言おうと五人を追いかけて公園を出た時には、路地の左右どこにも五人の姿は見当たらなかった。
彼女ら五人によって、今日もまた平和は保たれた。
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