[05-09] 血塗れパピー、舞う!

 ふと考えてみたら、これって初めての対イモータル戦――いわゆるプレイヤーバーサスプレイヤーになるのではなかろうか。


 わたしたちは好きなようにスキルを伸ばすことができる。

 ゆえに、ただ銃を撃つだけでなく、複合的な攻撃が多い。


「……うひゃあっ!」


 逃げる方向が読まれている。

 慌てて方向転換しようとすると、その先で――


 ぼんっ! 爆発が起きた。ダイナマイトを投げられたのではない。マギカである。


 森がどんどん破壊され、身を隠す場所も少なくなってきた。

 このままではジリ貧だ。どこかで反撃に転じないと。


 周囲に目を向けると、あちこち倒木だらけである。

 驚いた小動物――ミノムシみたいなリスだった――がその上を走ってジャンプ。戦闘エリアの外へ逃げていくのが見えた。


 ……これだ!


 わたしはまず〈L&T75〉の銃口を敵のノームに向けた。

 ぱんっ! 再チャレンジしてみたところで、弾丸はノームを傷つけることすらできない。


 でも、いいのだ。

 弾丸が石灰を巻き上げ、ノームの視界を奪う煙幕となる。


 そして、隠れていた木に向き合い、銃身を額につけて祈る。


「……ごめん!」


 森のヌシ、デュ・ホーンを救うため。

 不届き者の〈GHD〉を倒すため。

 わたしもまた、森を害する者となる。


《レリックスキル〈螺旋の支配ドミネーション・オブ・ヘリックス〉が発動しました》


 手首から光の鎖が浮き上がる。

 静止した世界の中で、鎖の回転速度がどんどん上昇して――


 どかん! 時間も暴力も一気に解放される。


 38口径の弾丸は、理外の力にも捩じ切れることなく、わたしの壁となっていた樹木に大穴を開けた。


 威力はなおも衰えず、〈GHD〉がいる辺りに着弾。衝撃波が広範囲に煙幕を起こし、一体の視界を奪う。


「うわっ、なんだ!?」


「炸裂弾か!」


「いや……違う! リボルバーが出せる威力じゃない!」


 向こうが混乱している一方で、大穴の開いた木は自重に耐え切れず、めきめきと音を立てて〈GHD〉側に倒れていく。


 わたしはその木の幹に飛び乗り、リスのように向こうへと駆け抜けた。


 ほんの少しだけ高い視点を持つだけで、煙の動きや慌てふためく物音から密猟者たちの位置が簡単に割り出せる。


 まず狙うは最寄りのひとり!

 木の幹から飛び降りる。ずしんと地響きが立つのを背中で聞きながら、懸命に煙を払っている密猟者に迫る。


「こいつ、いつの間に……!」


 敵もライフルを向けようとするけど、遅い。


 わたしは密着するほど懐に飛び込み、ライフルを払いのけつつ〈L&T75〉の銃口を押しつけて、ばんばん!


 ……遠くから撃てばいいのに、という話もあるけれど、


《タレントスキル〈アマルガルムの止渇サースト・オブ・アマルガルム〉が発動しました》


 近接攻撃で敵を倒したときに発動する、このスキルが狙いなのである。


 複数人を相手にするには、とにもかくにも集中力CPの回復ボーナスが必要だ。


 集中モードをオンにすれば、自分だけ流れる時間がゆっくりになる。

 その対価として、集中時に取る行動は全てCPを消耗する。ましてや弾丸の回避なんてそう何度もできない。


 でも、〈アマルガルムの止渇サースト・オブ・アマルガルム〉が発動している間は集中モードを長く維持できる。


 これがアマルガルム族の強み!


 わたしは密猟者の胸を蹴飛ばし、次なる犠牲者を探そうとする――が。

 きらりと光がまたたく。


「しィッ!」


「わっ!?」


 飛び出してきたのは、ナイフを構えた男だ。耳の長いネコ科の特徴を持つセリアノである。


「〈GHD〉調理アンド解体担当! 〈ジビエ亭〉シェフ、タコ吉推参!」


「ネコなのにタコ!?」


 左から右からと、立て続けにナイフが振り回される。


 けれど、わたしは少し離れてリボルバーで応戦した。弾丸はあっさりとナイフ使いの体を貫く。


「ひっ、卑怯な……」


「付き合ってられないよ!」


 念のために頭へ一発撃ちこんでおきつつ、リロード――


 がつんっ! 腕に衝撃が走る。


 飛来したライフル弾が、運がいいのか悪いのか、〈L&T75〉の銃身に命中してしまったのである。


「あっ!」


 ぎゅっとグリップを握っていたからよかったけれど、装填しようとしていた弾丸が弾かれてしまった。


「っとっと!」


 ほとんどは地面に落ちてしまったけれど、一発だけすっぽりとシリンダーに滑り込んでくれた。


 ……おや?


《スキル〈特殊装填トリックリロード 見習い〉が発動しました》


 へー、そんなスキルもあるのか。


 なんて感心している暇もない。

 ライフルで狙われたのは、煙幕の効果が薄れてきて、わたしの姿が向こうにも見えるようになったからだ。


「すぐそこにいるぞ! 囲め囲め!」


 先ほどアマルガルム族の強みを語ったばかりだけど、それでもどうにもならないときがある。


 動作の硬直時だ。


 だから一対多数でも、一対一を何度も繰り返すような状況を作らないといけない――これもラカに教わったこと。


 ここは無理に攻めず、ひとまず逃れる。

 が、相手も狩猟の手練れ。わたしの逃走経路を塞ぐように回り込んでくる。


 強行突破するしかない!


《スキル〈跳躍 レベル7〉が発動しました》


 木の幹を蹴って蹴って蹴って、相手の予測を外そうと試みる。

 結果は大成功。密猟者はこちらの姿を見失った。


「どこに行った!?」


 ここだよ。心の中で声をかけつつ、滞空中に弾丸を撃ち込む!

 どさっと倒れる音で、どうにか返り討ちにできたと判断する。


 これで倒した数は三人。


 でも、〈GHD〉は十人規模で動いているはず。

 ひとり欠けているとしても、まだ半分以上残っているなんて!


 焦りを覚えずにはいられなかった。

 敵の姿をさらに探そうとして――


 ばつんっ! 足元を撃たれる。慌てて反対方向に切り返そうとしてまたもや、ばつんっ!


 わたしはついに逃げ場を失い、慌てて木を壁にするしかなくなった。


行き止まりデッドエンドだ、お嬢さん!」


 男の人の声が轟く。


「こっちの銃口は全てお前を狙っている! そこに隠れ続けても炸裂弾で木っ端微塵だ! だが、その前にお前の顔を確かめたい! 出てくるんだ!」


 ……ここまで、かな。

 わたしは深く息をつく。残念。


 初めてのPvPで華麗な勝利を収めたかったけれど、まあ、この戦力差ではいくらなんでも無茶な話だった。


 しかし、絶望感はこれっぽっちもない。

 負け惜しみではない。だって、仕事はきっちりとこなせたのだから。


「でしたら、私の顔も確かめます?」


 毅然とした声が聞こえてすぐ、密猟者の絶叫が響き渡った。

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