世界の果てまで逃避行
夜鈴とありすへのお題は『このまま世界の果てに行こう』です。
「ねえ、このままどこに行く?」
乗客の殆ど居なくなった電車に揺られながら、先輩はそんな問いをぽつりと零した。どこに行く、だなんて。そんなの決まっている。できるだけ遠くだ。私たちのことを誰も知らない、そんな場所。例えば―
「……世界の、果てなんてどうですか?」
質問に質問で返せば、先輩はふっと吹き出して、そしてカラカラと軽快な笑い声を上げた。なんで笑うんですか、と不満を露に声をあげれば、ごめんごめん、と、いつも通りの軽い謝罪が帰ってくる。そんないつも通りのやり取りに、どこかほっとした心地になりながらも先輩をじっと見れば、先輩は、笑いすぎて眦に浮かんだ涙を拭いながら、やさしい笑顔を浮かべて言った。
「うん、いいじゃん。世界の果て」
じゃあ決まりだね。まるで旅行に行くかのような気軽さでそう言った先輩は、お手柄だ、とでも言いたげに、私の頭をぽんぽんと撫でた。先輩に撫でられたことが嬉しくて、思わず頬が緩みそうになるのをどうにか堪えていると、先輩は顎に手を当てて、何かを考え込んでいるようだった。
「でも、世界の果てって何処なんだろうなぁ」
「……さあ?終点駅とかですかね?」
「ふふ。それは随分、スケールの小さな世界の果てだね」
だけどそれくらいが僕達には丁度いいよ、きっと。そう言って、こてりと私に身体を預けて目を閉じた先輩に、寝ちゃ駄目ですよ、と声を掛ける。先輩は、不思議そうな顔をすると、
「大丈夫だよ。どうせ終点まで行くんだ。寝ちゃっても問題ないさ」
それもそうか。先輩に倣って目を閉じ、身体の力を抜く。そうすれば、心地好い眠気が、私を夢の世界へと誘わんとばかりに、私をゆるゆると包み込んだ。
このまま眠ってしまうのも惜しい気がして、隣にいる先輩のちいさな手をきゅっと握る。その仕草に、先輩は私が不安になっているのかと勘違いしたらしい。空いているもう片方の手で、私の手をゆるゆると撫でた。
「……大丈夫。目が覚めたらきっと、そこは世界の果てだよ」
薄れていく意識の中、そんな先輩の優しい声が鼓膜を揺らす。そうですね、そう呟いた声は、果たして先輩に届いていたのだろうか。ふふ、と擽ったそうに笑う先輩の声が聞こえたから、私の声は届いたのだと、そう信じたかった。
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