マラソン
「昨日のマラソン観たか? すごかったよな~。沿道並走マラソン記録打ち立ててたな」
「ああ。沿道で並走してた観客が優勝したやつか。応援してたらつい自分も走りたくなったとか言って」
「給水地点じゃなくて『ここで一回応援しなくちゃいけない』っていう応援地点を設けた上での優勝だからな。ほんとすごいわ。最後なんて走者がペースダウンしちゃって振り切ってたもんな。『沿道の応援が励みになった』ってそういう意味じゃないだろ。あ~俺も走りたくなっちゃたな~」
「いるよな~。看過されて走っちまう奴。そんでふくらはぎとか腿あたりがベジタリアンになっちまうんだよな」
「マラソンは30過ぎてからが勝負なんだろ? 俺は30超えてないから大丈夫だ」
「年じゃねえよ。距離だ、距離」
「ああ。そういうことか」
高崎は納得したように手をポンと叩いた。
「でも大丈夫。ラストスパートで勝てば。残り195キロで全力だ」
「なんかウルトラマラソンになっちまったぞ・・・」
◇◇◇◇
教室で黒の短パンの白いTシャツである体育着に着替えた高崎に同じく体育着になった小野坂。
「おい。ちょうどよかったな。今日の体育長距離だってよ」
「マジか。たるっ」
「マラソンしてえって言ってたじゃねえか」
「なんか体育でやるってなると途端にな~。それに俺42.195kmしか走れないからな~。逆に無理だわ~」
「そんじゃ40.695キロ走った体でスタートすりゃいいだろ。あああと、50m走もやるってよ。今度計測やっから練習だとよ」
「マジか。たるっ」
「50m走ならめんどくさがる前に終わっちまうだろ」
「言っとくけど俺42.195mしか行ったことないぞ」
「今日はいい天気だし50mまで足伸ばしてみろよ。意外と近場だぞ」
◇◇◇◇
別の日。小野坂が廊下で尾花を見つけて尋ねた。
「尾花。昨日のマラソン観たか?」
「ええ。観ましたよ~」
相変わらずのほほんとした口調で応える尾花。しかし小野坂の表情は固い。
「なんか優勝した奴、めっちゃ怯えてたんだが。インタビューでも『先日亡くなったおじいちゃんが背中を押してくれた感覚があって・・・背筋がぞわぞわしてすごい怖い気持ちになったんです。その恐怖感で早くレースを終わらせたいって頑張りました。え? この汗ですか? もちろん冷や汗です』って言ってたし。よく考えたらレース中もよく後ろ振り返ってたしな。そいつの背中には、いたのか? おじいちゃんが」
「い~え~」
「え、そうなんか?」
否定の言葉を言われあっけにとられる小野坂。
「でもエチオピアの人の霊とケニアの人の霊が取り憑いてましたね~。ゴースドーピングってものですね~」
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