Chapter-03
「ああ、2人は起きてきたのね」
浴室の脱衣所に朱鷺光の着替えを持っていったシータが、リビングに顔を出す。
シータも明らかに高校生程度の見た目に作られているが、身長は頭頂部で165cmと少し高めになっている。身体つき全体は平均的なプロポーションでC。
爽風は、身長は162cmでシータとそれほど変わるわけではない。合気道の有段者でもある彼女の身体つき全体はスポーティに引き締まった感じだが、出っ張るところには不足していない感じのF。
颯華は、身長が170.5cmと高めで、身体つきは全体的にボリューミーなように見えるが、Dで実は爽風に負けている。
そして、今、光之進との対戦を終えて、ダイニングエリアの方へ歩いてきたオムリンは、身長は155cmと、他の3人と比較すると少し低めで、身体つきもスマートなA。
「光之進さんは、ご飯にしますか?」
ファイが、ダイニングエリアにやってきた光之進を見てそう訊ねた。
昭和がふた桁になったばかりの生まれで、90歳を過ぎているが、そうは見えないほど、線も太く足腰もしっかりしていた。
父である左文字
ちなみに、名前にある通り、朱鷺光や爽風達の曾祖父にあたる六光は本来六男坊で、戦前に常磐鉄道を興した左文字家の家督相続はないものと思って海軍予科練に志願したが、戦争が終わってみれば長兄は空襲で亡くなっており、他の兄弟も戦死していてお鉢が回ってきたと言う。
大戦末期には水上戦闘機『強風』でB-29を2機ほど落としたことを自慢していたとかで、左文字家の仏壇には乗っていた強風の胴体の一部が飾られていた。
「いや、ワシも今朝はパンにしよう。おかずも洋風なようだからな」
「そうですか、じゃあ、余分なご飯は冷凍しておきましょう」
光之進がそう答えると、ファイはそう言って、台所の方へと移動していった。
既に食卓についている爽風は、焼き上がった自分のパンにカップ入りのバターを塗っていた。オーブントースターは颯華が仕掛けたパンを焼いている。
「んー、大伯父さん、先に食べる?」
颯華がそう訊ねたが、
「いや、後からでええぞ、ワシは別に急いどらんからな」
と、光之進は、オムリンが用意した折りたたみ椅子にどっかりと腰を下ろしつつ、そう言った。
「さて、これで問題は澄光だけってことか」
シータが、眉を歪ませつつそう言った。
キュルルルッ、というセルモーターの音の後に、スズキRG250Γ・CUSTOMの水冷2ストエンジンが爆音を立て始める。
広いガレージの中には、他には朱鷺光のFA型スバル ドミンゴ、同じく朱鷺光のコレクションである初代三菱 コルト、家族移動用のSR型マツダ ボンゴブローニィワゴンが停まっている。
他に颯華が使っているスズキ 2サイクルバーディーもあるが、それは既に颯華が駅へ向かうのに乗っていってしまっている。
「シーター? 澄光まだ寝てんの?」
RG250Γの持ち主である爽風は、エンジンを暖気しながら、ガレージからリビングの掃き出しの窓に近づくと、庭側の出入り口になっているそこから、リビングを覗き込んでそう声をかけた。
「なんだ、あいつまだ寝てんのかよ」
シャワーを上がったシャツにスウェットのズボン姿で、リビングにいた朱鷺光が言った。
「こりゃ今日も遅刻確定かねぇ」
シータは、廊下の方からリビングに顔を出すと、肩を竦めてみせた。
「もう、私も遅刻しちゃう、これ以上待ってらんないから」
ライダースーツ姿の爽風が、腕に嵌めたBaby-Gの時計盤を見ながら言う。
「ほっとけほっとけ。遅刻してもあいつが悪いんだ」
朱鷺光がそう言うと、
「じゃあ、私、出るね」
「うい、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃーい」
と、朱鷺光とシータに見送られて、爽風はガレージの方へ移動していく。
やがて、RG250Γに跨った爽風が、庭から門を通って道路へと出ていった。
「さて……俺は寝るぞー」
「ん、朱鷺光もお疲れ。布団は敷いておいたから」
朱鷺光の言葉に、シータはそう言った。
「サンキュ」
朱鷺光は、シータに礼を言いつつ、少しよろめくようにしながら、廊下へ出て、別棟の方へと歩いていった。
それとほぼ入れ替わるように。
「なんでもっと早く起こしてくれないんだよ!」
「シータ姉さんが何度も起こしてましたよ。反応なかったのは澄光さんじゃないですか」
母屋の階段を、バタバタと、高校生の年頃の少年が、後ろに続くファイと一緒に降りてくる。
左文字
「なにー? 私が部屋の中踏み込んでも良かったの?」
シータが、呆れたようにジトッとした視線を向けながら、訊ねるようにそう言った。
「いや、そう言うわけじゃねぇけど……」
シータの視線に、澄光はきまり悪そうにしながら、そう答える。
「澄光さん、時間!」
「って、もうどうやっても間に合わねぇじゃん!」
ファイに声をかけられると、澄光は、壁にかけられた、プレーンな丸型のカシオ製電波時計を見て、そう言って頭を抱えるポーズになった。
「姉貴は?」
「もう出た」
爽風も颯華も澄光も、朱鷺光の母校でもある県立高校に通っていたが、電車で20分ほどかかる。
「そうだ、兄貴に言って途中の駅まで送ってもらえば……」
「徹夜明けで今寝たとこ、そんな理由で起こしたらブチ殺されるわよ」
澄光は、閃いたというように言ったが、シータが、呆れたような顔をしながら即座にそう返した。
既に光一郎はオフィスに、雪子は、実家の酒屋を手伝いに出てしまっている。
「まずい、今のペースだと遅刻数、学年トップになっちまう!」
「解った」
狼狽えるように言う澄光に、そう言ったのは、オムリンだった。
「私が学校まで送ろう」
「へ?」
オムリンの言葉に、澄光が凍りついたようになる。
「いや……大丈夫……今日はしょうがない……いや、しょうがないから」
「朱鷺光や光一郎や雪子に、叱られたくはないのだろう?」
「そうだけど! オムリン、やめっ……お願い」
澄光の言葉は半ば懇願するかのようになってくるが、オムリンは、ニュートラルな表情で、身長175cmはあり決して華奢とは言えない体躯の、まだ完全に着付け終わっていない感じの制服姿の澄光を、ひょいっと抱え上げた。
そのまま、先程爽風が顔を出していた掃き出しから、ガレージの方へと向かっていく。
「行ってらっしゃーい」
楽しそうにニコニコと笑いながら、シータは手を振ってそれを見送る。
「いやぁあぁあ゛あ゛あ゛ぁぁぁ……」
ガレージから飛び出してきたのは、オムリンが漕ぐ自転車、丸石ホットニュースALの後軸部分を改造して、後輪左側に電車のディスクブレーキを付けたそれだった。
オムリンはたすきで澄光の身体を縛って背負い、そのまま道路に飛び出していく。
ドップラー効果のかかった澄光の絶叫を残しながら、おそらく自転車が出してはいけないだろう速度を出して、自転車は爆走していった。
「今のは澄光か?」
そこへ、弘介が姿を見せる。
服は徹夜明けのヨレヨレだったが、なぜだか楽しそうにニヤニヤ笑っていた。
「あれ、弘介寝たんじゃないの?」
「俺にもシャワーぐらい浴びさせてくれよ」
シータが意外そうに言うと、弘介は苦笑しながらそう言った。
「…………光之進のじいさ、会長は?」
次に弘介は、リビングを見回すようにしながら、シータにそう訊ねる。
「さぁ。朝ごはん食べたから自分の部屋でFG◯でもやってんじゃない?」
シータは、肩をすくめるポーズをしながら、そう言った。
「ま、いいけどね」
そう言う弘介は、手に自分の換えの下着を持っていた。
左文字朱鷺光のR.Series……ロボット製作のパートナーでもある弘介は、朱鷺光がその作業に入った時は、左文字家に詰めることになっている。その為、下着類や寝間着などを置いてあった。
「ふぁぁぁ……俺もさっぱりしてさっさと寝よ……」
「弘介もお疲れ」
欠伸をしながら疲れ切った声を出す弘介に、シータが苦笑気味の表情で労いの声をかけた。
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