アマルガム
シノヤン
チャプター1:前兆
プロローグ
街の大通りは警察や軍の車両によって塞がれ、野次馬達は遠くから微かに聞こえる銃声に耳を澄ませつつ、建物のスクリーンに映し出される中継映像に釘付けになっていた。ホールと呼ばれる謎の怪奇現象によって未確認生命体の出現が始まってからというもの、このような光景は決して珍しくなかった。
「最新の情報をお伝えします。ディープバレーパーク前の大通りの封鎖が続いていますが、先程レギオンの特殊作戦チームが到着したとの事です。また新たな情報が入り次第、随時お伝えしていきます」
そういったアナウンスも流れ、街中の人混みは非常に戦々恐々としていた。そんな人々から離れたビルの屋上では、一人のマスクを被った男が街を眺めていた。
「いつまで守れるかな…何の価値も無い連中の日常を」
――――封鎖された大通りでは警察や軍による攻撃が中型未確認生命体、通称「ブロウラー」へと浴びせられていたが、固い外殻に守られ思う様に効かなかった。
「クソ…だめか!」
現場を指揮していた刑事も悔しそうに声を漏らす。銃撃によって逆にブロウラーを怒らせてしまったらしく、野太い雄たけびが辺りに響き渡っていた。すると、背後から兵士や警官を押し分けてスキンヘッドの男が現れた。
「現場の指揮を執っている者は?」
「わ…私がそうだ。あんた、レギオンだな」
険しい顔をしている初老の男性が呼ぶと、刑事は恐る恐る前へ出る。
「標的と封鎖の状況は?」
「既に一帯を封鎖しています。取り残されている民間人には建物の外に出ないようにと指示を出しました…肝心の標的には手も足も出てませんがね」
「分かった。こちらも念のために部下を配置している…あいつを使うんで、あんたらもなるべく離れててくれ」
「あ、あいつってまさか…分かりました!すぐに指示を出します!」
男からそう言われた刑事はすぐに周囲に連絡を取らせ、兵士や警官達を標的であるブロウラーから距離を取らせる。それを確認した男は耳に付けている通信機で連絡を始めた。
「キースだ。間もなく辺り一帯に邪魔が無くなる」
「了解、『アレス』の投入を許可する」
「よし…オイ出番だ新入り!好きなだけ暴れろ!」
連絡を終えた男はそう言うと、遠くで待機している一人の人物を呼びつけた。キースと同じように迷彩柄の戦闘服に身を包んではいるものの、フルフェイスのヘルメットに隠れて素顔は見えない。だが、返事をした際の声色から青年である事は分かった。青年は溜息をつきながら近づき、そのまま標的の元へ向かう。周囲は慌てて止めようとしたが、キースがそれを阻んだことから青年がアレスである事を悟った。
「倒した事のある相手なんだ、余裕だろ?…カッコいい所見せてくれよ」
「茶化さないでくださいよ…ったく」
揶揄うキースをあしらいながら、青年は重苦しく歩いていく。ブロウラーも青年の存在に気づいたのか睨みつけながら唸った。青年は相手が臨戦態勢である事が分かると、両手に力を込める。両手が黒く変色したかと思うと砂の様な粒子に包まれ、気色の悪い音を立てながら変形し始める。気が付くと両腕は、ブロウラーと同様の頑強な外殻に覆われていた。
ブロウラーが鈍重な足取りで向かってくる中で、青年は静かに構える。
「何でこの仕事引き受けちゃったんだろう俺…」
戦いが始まる直前、青年は情けなくポツリと呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます