第9話 まさかもっと働きたいと思う日がくるなんて
リューはドラゴンだからいいとしても、レオナちゃんとレオルくん、ちょっとスペック高過ぎじゃないですかね?
お陰で私の出番がない。
割と切実に。
これではダメだと、私は奮起した。
今まで二人に任せ切っていた解体。
それくらいやれずして何がお姉ちゃんだ!
そう思って、一度ウサギの解体を手伝おうとしたんだけど、ナイフを刺して血がドバっと出てきた瞬間に卒倒してしまって、
「おねーちゃんは無理しないでいいよ?」
「ぼくたちがやるから」
と、二人に優しく諭されてしまった。
泣いた。
「お魚さんならできる?」
「それならできるはず!」
代わりに魚を捌くことにチャレンジ。魚だったら気を失うことはないだろう。
最初は酷い出来だったものの、何度かやっているとどうにか捌けるようになってきた。
レオナちゃんの三倍くらい時間がかかるけど。
「やったね、おねえちゃん!」
ありがとう。でも普通はこういうの逆だと思うんだ……。
「おねーちゃんおねーちゃん!」
ウサギもといホーンラビットを抱え、レオルくんが嬉しそうに駆けてきたから何かと思ったら、どうやらついに槍での狩りに成功したらしい。
「ずっと練習してたもんね。すごいよ」
素直に称賛する。本音では狩りなんて危ないことはしないでほしいんだけど……でも男の子だし、仕方ないよね……。
「うん! 次はオークにちょうせんする!」
「いやいやそれは本当にやめてよ!?」
槍の技術を上達させた一方で、レオルくんは住環境も向上させていた。
まず、宣言していた通り家が大きくなった。
中心に土台となる太めの柱を数本置き、その周囲に円柱形になるよう木で柱の骨組みを作ると、粘土を使って間を埋めて壁を作り上げた。
続いて、しなりの強い木を使って中心から放射状になるよう骨組みを設け、それを葉っぱで覆って屋根を作っていく。もちろん森で取ってきた葉で、一枚がめちゃくちゃ大きく、大人の身体をすっぽり包み込めるほどだ。お陰でほとんど雨漏りしない。
形状は遊牧民のゲルに似ている。
元々野ざらし状態だった窯の上に作ったんだけれど、煙突が一本屋根の上から飛び出している点も同じだ。ただし壁は粘土を固めているので移動はできないけど。
広さは二十畳くらい。
床には木を削って作った板を敷き詰めてある。ほとんどフローリングだ。
ウサギの毛皮で作ったベッドまであった。
横になってみると、今までの枯葉のベッドとは全然違った。凄く気持ちいい。
これなら快適に寝れそう。
「「ごろごろー♪ ごろごろー♪ ごろごろごろごろー♪」」
よっぽど気に入ったのか、二人仲良く右に左にと転がっている。かわいい。
リズムがなぜかジョ〇マンっぽいのが気になるけど……たぶんただの偶然。
料理も中でできるようになった。今まで雨が降って食材が濡れたり、風で飛んだりしちゃっていたからね。
今までの簡易シェルターと違って、安全面も強化されたと思う。さすがにオークが本気で体当たりしてきたら壊れるだろうけど……。
「クルルル~ッ!(わーい!)」
入り口がちょっとギリギリだけど、今度のおうちならリューも中に入ることができた。
尻尾をふりふり喜んでいる。室内犬……?
「でもリュー、なんか最近、前よりも大きくなってない……?」
「レオナもそう思ってた!」
「レオルも!」
「クルル?(そうかな?)」
当人は首を傾げているけど、明らかに見て分かるくらいには以前よりでかくなっている。
そのうち入り口を通れなくなりそうだ。
ドラゴンだから成長が早いのかもしれない。
動物って人間より早く大人になるしね。
さらにレオルくんは防犯用の仕掛けを施した。
家の周囲に蔦を張り巡らせ、それに触れると家の中に設置した小道具が鳴るという仕組みだ。
要するに鳴子。
ベッドのお陰でこれからは熟睡できちゃいそうだけど、これなら安心だね。
それから、なんとレオルくんは水路を作り、川から家まで水を引いてきてしまった。
今はまだ土を掘って踏み固めただけなので、水があまり綺麗じゃないけど、いずれ家にいながら身体を洗ったり、洗濯したりができるようにしたいという。
それ完全に上水道じゃないですかー。
「できれば下水の方もお願いします、レオル先生」
「せんせい……? うん、やってみる!」
今は穴を掘っただけの簡易トイレ。
一応、外から見えないようにしているけど、定期的に埋めて新しく掘り直す関係で、塀と呼べるような立派なものではなく、移動可能ないわゆる衝立的なやつなのですごく心許ない。
高さも無いから大人の背丈なら見えちゃうし、誰かが覗きこんできたらと思うと落ち着いて用を足せない。いや、誰もいないけど。
ちなみにこうした土木作業を主導しているのはレオルくんだけど、作業においてはリューが圧倒的な活躍を見せている。
なにせパワーが違う。
鋭い爪で簡単に木を切り倒すし、重い木材を軽々と運べる。
屋根を作るときには、翼を広げて空を飛んで作業をしていた。
土を掘るのも朝飯前で、きっとリューがいなければ水路を作るのに途方もない時間がかかったと思う。
お陰で非力な私なんかが手伝う余地がまったくなかったけどね!
やっぱり私がお手伝い(もはやリードする気すらない)するとしたら、レオナちゃんの方だろう。
魚も捌けるようになったしね! 山菜を切るのもできるよ!
土鍋ができたお陰で、スープを作れるようになった。
「ん~、魚の出汁が利いててとっても美味しいです、レオナ先生!」
「せんせい……?」
ある日、レオナちゃんが小麦っぽい植物を見つけてきたことで、食生活が一気に豊かさを増すことになった。
臼を使って製粉すると、水で練って平らにしてから窯の中で焼く。
「かたいの……」
できあがったパンは硬く、レオナちゃんは不満げだ。
パンをふっくらさせるにはどうしたらいいんだっけ?
確か……酵母?
そう、酵母を混ぜるんだ!
いよいよ私の現代知識が役に立つときがきた! 名誉挽回、汚名返上だぜ!
あ……でも酵母って、どうやったらできるの……?
知らにゃいよぉ……。
「どうしたの、サオリおねえちゃん?」
「ごめんね……ポンコツなお姉ちゃんでごめんね……」
「おねえちゃん!?」
結局、レオナちゃんが試行錯誤の末に発酵させた果物の汁を混ぜることで、柔らかくて美味しいパンができあがった。
果物から作ったジャムを付けて食べると絶品だ。
これなら毎日でも食べられそう。
でも残念なことに自生している小麦(っぽいの)はあまり多くないという。
「さいばいしてみるよ!」
水路ができたこともあって、レオナちゃんはついに栽培に挑戦し始めた。
小麦だけじゃなく、果物や山菜なんかも、栽培して増やせればわざわざ危険な森で探し回る必要はなくなるだろう。
カラカラカラカラ!
鳴子が音を響かせたのは、ある晩のことだった。
「おねえちゃん、おきて!」
「おきておきて!」
「ふぇぇ? もう朝? あと五分……」
「ちがうよ!」
「なにか来た!」
二人の深刻そうな顔で、私はようやく目を覚ました。
直後、ガンガンガン、と。
家が何かに体当たりされている!?
しかもあちこちから音が聞こえてくるし、複数いるようだ。
やがてそこが入口だと分かったらしく、ドアが叩かれ始めた。
この家のドアはただの板を蝶番代わりの蔓草で取りつけているだけで、強度は低い。
案の定、簡単に破壊されてしまう。
ドアの向こうに広がる闇の中に、複数の小さな光が浮かんでいた。
目だ。
「キィキィキィッ!」
「ギギギギィッ!」
甲高い叫び声を上げて威嚇してくるやつらは、この森に来て初めて見る生き物だった。
「猿っ?」
結構大きい。
ゴリラ程じゃないけど、小柄な女性くらいはあるだろう。
直後、一匹の猿が家の中に飛び込んできた。
だが玄関を入ってすぐのところには我が家の番犬、いや、番竜のリューがいる。
「グルァァァァァッ!」
「ギャッ!?」
リューの前脚が猿を吹き飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます