2:神居新

音が外れたチャイムが鳴る。噂では、10年以上直していないらしい。


昼休みになると、廊下は早弁族の購買や食堂へ急ぐ音で賑わい、教室ではグループごとに机をつなげてみたりと大忙しだ。高校生の1時間は長い。この昼休みにお昼を食べるだけでなく、部活動の準備をしたり、軽くデートをしてみたり、まるで社会人と同じ1時間とは思えない時が流れていく。


「見たかよあーらたー!! けっこ可愛いかったよな?」


「あーん?」


窓際の後ろから2番目、神居新かみいあらたの定位置だ。お昼になると隣には自称親友の金井が現れるのが鉄板となっている。金井は、へらへらと笑いながら弁当を広げだした。


新は飲んでいたペットボトルの水を置き、金井に目を向けた。


「あんじゃねーよ分かるだろ! ほれ」


新の後ろを指差す。チャイムが鳴ると同時に、空席となっていた。


「転校生だよ、転・校・生!! 俺ロリ顔に目がないのよな~」


「ほー。先週は美人に目がないとか言ってなかったか?」


「ばーか。恋ってのは泉のように次から次から湧いてくるもんなんだよ!!」


「泉といやー、お前先月付き合ってた泉ちゃんはどーしたんだよ」


「良いお友達です。・・・それより! なーんか楽しい高校生活が始まりそうな予感で胸がドッキドキエブリタイム!!」


「・・・箸で人を指すな箸で。口の周りに米粒つけて頭のわりーこと言ってんなよ優斗。イケメンが台無しだぞ」


「きゃー優斗可愛いー!!」「今日もかっこいいね優斗ー!!」


窓の外に調子よく手を振る金井に、イケメンに足し算も引き算もないんだな、と新は思った。金井は上機嫌のまま、続ける。


「とーにかく新、依那古ちゃんはなーんか普通の娘たちとは違うものを感じるんだよなー! フェロモンっていうのかさー」


「そーかー? ま、ほどほどにしとけよ優斗。後ろでざわざわされっとうるせーからよ」


新はお弁当グラタンを食べ終わると、底に書いてある占いを見た後に、箸で器用にぐしゃり、と潰した。


「まずはお昼一緒に食べるところからだな! 新!」


「勝手にしろ。俺を巻き込むなよー」


「ばっか、お前と俺はニコイチなんだから、三人でに決まってんだろ!!」


「決めんな」


騒がしい群れが、一人、また一人と教室に戻りはじめる。このバカと話しているうちに、ああ今日も昼休みが終わっていくな、と新は思った。相変わらず飲みかけのペットボトルを、机の脇にかけた自分のカバンに閉まった。


教室の後ろのドアが開く。野球部の群れの後ろに隠れて、転校生も弁当箱を握りしめ戻ってきたようだ。金井はその姿に気づくと、空になった弁当を片付けて立ち上がった。


「てか新、お前可愛い可愛くないの前に、ちゃんと顔見たのかー?」


「見てねーよ。後ろに座ってんのに見えるわけねーだろ」


「いや、お前な・・・、まいいや! また放課後なー! さびしいと思うが、しばしお別れだぜ親友!!」


大げさな動きでお辞儀をすると、金井は斜め後ろの席へ戻った。


背後に、人が座る音がする。案の定、金井の声が聞こえると、男女が会話する軽やかな声が聞こえてくる。


新はぼんやりとグラウンドを眺めると、ああ確かに今日は大凶だな、と昼飯の占いを思い出すのだった。

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