第4話 死と言う救いを求めて・・・

不老不死、最早疑う余地が無いほど長生きをしている事で私は失念していた。

医者から言われた『左目失明』と言う言葉も大して気にしていなかったのだ。

だが現実に向き合うには時間が十分過ぎた・・・


「やっぱりそうなの・・・」


失明してから30年が経過していた。

だが未だに視力が戻るどころか左目が元に戻ることは無かった。

そう・・・私は不老不死、つまり老けない死なないと言うだけなのだ・・・


「う・・・嘘よね・・・」


導き出される答えは一つ、自然治癒や移植で回復する怪我であれば治るが、治らないモノは永遠に治らないのだ・・・

それから私は荒れた、求めた筈の不老不死がこれ程に恐ろしいものだという事に気付いてしまったのだ。

そんな私が酒に溺れるのは必然と言えただろう、酔えば不安が忘れられるのだ。

麻薬に手を出すことも考えた、幸いお金は腐る程ある・・・

だが中毒症状になれば治らないと言う予想が手を出すことに躊躇させた。



そして、そんなある日・・・地獄の蓋が開いた・・・





「よぉ姉ちゃん俺らと遊ばね?」

「ふぇ?あによあんたたち・・・」

「うわっ酒臭ぇ・・・おい本当にこんなのナンパするのかよ?」

「今時こんなガキに手を出したら不味いぞ」


時代が流れ人々の平均身長が伸びていた、その為自分の身長がかなり低身長として扱われる時代になっていたのだ。

だが酒に溺れ、ただでさえ脳が記憶と感情を失っている私は気付いていなかった。

自分がフラフラと人気のない裏路地に迷い込んでいたことを・・・


「うっせぇ、こんなガキでも酒飲んでいるんだから未成年って事はねーだろ?」

「はぁ、またこいつの悪い癖が出たよ」

「ふぇ?」


ふらつく私の手を掴んだ男、その目を見て忘れていた感情が僅かに蘇る・・・

それは恐怖、酔いが少し冷め手を振りほどいて私は走り出した。


「あっ!オイ待て!そっちは!!!」


後ろで叫ぶ男の声が聞こえた。

私はそれから逃げるように走って・・・飛び出した・・・


キキーーーー!!!!!


迫る2つのヘッドライト、それが記憶に残っている最後の光景であった・・・







「う・・・うそ・・・嘘よ・・・」


目を覚ましたのは病院のベットの上であった。

医学は進み、全て機械が最適な治療を自動で行う現在、私の左腕と右足は壊死を避ける為に切断されていた。

それがこの時代の最先端の医学が出した結論であった。


「不老不死なのよ!再生くらいしなさいよ!」


叫ぶ私、人工知能が私の叫びを聞きつけ血管に繋がれている管から精神安定剤を送り込む・・・

やがて薬が抜けて意識がハッキリする数日後になっても現実は変わらない・・・

左目は見えないまま、左腕と右足は無いまま・・・

私は絶望していた。

不老不死と言うのは死なないのではない、死ねないのだ。

失明をしてから幾度もこうなる可能性を考え自殺を考えていた。

だが不老不死の自分が死ねなかった場合を考えると恐ろしくて実行に移せなかった。


「もう・・・やだ・・・誰か・・・私を・・・」


入院生活、ただでさえ退屈な人生は更に退屈なものとなっていた。

義手と義足で歩く真似事は出来るかもしれないが、真似は所詮真似でしかない・・・

これからも続く永遠ともいえる人生で残る部位が無事に残るなんて・・・

なにより、もう生きるのが嫌になっていたのだ・・・


「私を・・・殺して・・・」


そう涙ながらに人工知能に訴え続けていた私・・・

リハビリを行う事もなく寝た切り生活を続けていた私は気付かなかった・・・

入院したまま数十年が経過している事を・・・


私は生きる事を諦めていた・・・

死にたい一心で食事も取らず水分も取らず時間も忘れて常にボーとしていた・・・

誰にも会わず誰とも話さず語りかけてくるのは人工知能だけ・・・

それに答える事無くずっとそうしていた・・・

寂しくて辛くて苦しい・・・でも死ぬ事は許されない・・・

こんなのは生きているとは言わない・・・

絶望のどん底に陥った私はなにも考えなくなっていた。

だから自分の体が運び出されているのに気付くのが遅れた・・・


「こいつがそうなのか?」

「はい」


何か会話がされているのが聞こえた。

だが10年以上寝たきりで飲まず食わずでいた私は体が全く動かなかった。

そして、会話や景色に変化がみられている間は思考が動くが、そうで無い時は時の流れに付いていけなくなっていた。


「それではオペを開始する」


次に目に飛び込んできたのは手術服を着た医者型のロボットであった。

それを見て私は気付いた。そう、何十年も年を取らず飲まず食わずで死なない自分を調べる為に人体実験が行われるのだ。


(いやっ!止めて!)


声を出そうとするが石のように固くなった唇は開かず、舌も乾燥して動かない・・・

僅かに行っていた呼吸だけでは声は出なかった・・・

そして、自分の体にメスが沈む・・・

凄まじい激痛と共に体の中身が減っていくのを感じた。

だが同時に遥か昔に感じていた安心感が広がり始めているのを感じた。


(これでやっと・・・死ねるのね・・・)


今まで時間の流れがとんでもなく早かったのがゆっくりになっていた。

走馬燈と言う単語が頭を過る、だがそれが何だったのか覚えていないがどういうものかは理解が出来た。

思い出すのは微かにしか思い出せない親しかった人との記憶・・・。

永遠ともいえる悪夢は自らの心臓が摘出されるのと共に終わりを迎えた・・・


(これでようやく終われる・・・長かった・・・)


永遠の拷問が終わる、私は死ぬことを恐れる事は無かった・・・

だが、救いなんてものは訪れなかった・・・

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