三十三 葛籠
雀が二羽、急ぎの用だと言って、大きな葛籠と小さな葛籠をくわえて飛んできた。
何かと思えば、おれに大きな葛籠に入ってもらって、小さな葛籠にもおれの知り合いに入ってほしいということだったので、どういうことかもう少し詳しく教えろ、と言ったら、
「村はずれに住んでいるお爺さんにかわいがられていた子雀が、昨日、舌を切られて帰ってきたんでございます。そのお爺さんはやさしいお爺さんで、そんなことをする人ではありません。たぶん、一緒に暮らしている意地悪婆にやられたんだと思いましたが、舌を切られた子雀が話せるはずはありません。それが、今日、昼過ぎに訪ねてきたお爺さんが、子雀の舌を切ったのが婆さんで、そのお詫びと見舞いを言うために来たと言いました。それで、私らはお爺さんをもてなして、夕方になってお土産を持って帰ってもらいました」
と話したので、土産まで持たせたのか、と少し呆れて言ったら、
「大きな葛籠と小さな葛籠と二つ、どちらにも私らの蓄えております金銀財宝を入れて渡そうとしましたら、はじめは、とんでもない、こっちが悪いんだからもらう道理はないとお爺さんが断わるところを、何とか持って帰ってくれと言いましたところ、小さな葛籠だけ背負っていきました」
と続けた。
「ずいぶん欲のない爺さんだな」
そう言って笑うと、雀が深刻な声で、
「それなんですよ。欲のないお爺さんを見送っているうちに、きっとあの意地悪婆が大きな葛籠も寄越せと言いにくるに違いないと誰かが言い出して、そのままお宝を入れた葛籠を持っていかれるのは癪だから、一つ、違うものを入れよう、どうせなら仕返しに懲らしめてやろうということになりまして……」
と言っておれを見てにっこり笑った。
すると、これを傍で聞いていた一つ目の小僧が、
「面白そうだから、俺が中に入る」
と言い出して、だったらわしも入れろと白い肉の塊が、
「ぬっへっほ、ぬっへっほ」
と、これも大きな葛籠に入ろうとする。
「お前らだけじゃ寂しいから、百足や蚰蜒もたくさん入れてやろう」
おれがそう言って大きい葛籠に投げ込み始めたところへ、黄金色の坊主がやってきてなんだなんだと聞いたから、こういうことだと話をすると、
「それなら小さい葛籠にはわしが入ろう。もしその婆さんが小さい方を選んだときに、わしが黄金を渡してやらねば釣り合いが取れまい」
と、これも楽しそうに言いながら、小さい葛籠に入った。
二つの葛籠をおれが抱えて一同が着いてすぐに、意地悪婆がやってきて、やっぱり大きな葛籠を渡せと言った。
「もう一つ、小さな葛籠もございます」
と雀が言ったが、婆さんは大きな葛籠を背負うだけで精一杯。それでもあとで小さいほうも取りにくると言って帰ったまま、もう雀の下を訪れることはなかった。
大笑いしながら戻ってきた一つ目小僧とぬっへっほが、
「家に帰る前に我慢できなくなって葛籠を開けた婆さんの腰の抜かしようといったらなかったぞ」
と愉しげに話した。
こっそりついていった雀がそのあとを、
「それでも、心配して迎えにきていたお爺さんが、意地悪婆さんをおぶって帰っていきましたよ」
と続けると、
「そんな婆さん、なんで捨てられないんだろうね……」
黄金の坊主がつぶやいて、それには誰も何も答えられなかった。
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