第213話 前略、お屋敷とメイド長と

「おぉ…………」


 シンプルにデカい。

 リリアンに案内されてきたお屋敷は、なんとも単純。ため息が出るほどに大きい。

 ため息は俯きながら。と相場が決まっているはずだけど、どうやら見上げながらも出るものらしい。


「なかなかのもんだろ?」


 見なくても分かる。

 右のリリアンも左のお兄さんも、得意げな顔をしてるんだろうな。自分が建てたわけではないだろうけど、住んでるってのもいわゆるステータス、ってやつだね。


「……やっぱり場違いって感じ」


 この場合もやっぱり、やっぱりとしか言いようがない。

 学園……というよりもはやお城、そんな学園も見た。その後は実際にお城を見た、入った。他にも友達の実家、お屋敷にも行った。


 そのいくつかはここよりも立派だったり、大きかったりしたけども、そのどこにおいてもあたしが相応しくないのは誰が見ても明らかだよ。

 いくらため息をついても足りない、テラスや装飾のせいで正確にここが何階建ての建物か、そんなことも分からない。

 

「肩がこりそうだよ、まったく……」


 毎日の入念なストレッチも、押しつぶされそうな場違い感には勝てそうもない。 

 いつもなら割り切れそうなものだけど、今回は招かれざる客だ。そんでコッチからもあまり前向きな感情は持てない。


「そう緊張せずに。確かに大きな建物ですが人はあまり住んではないですし、母もあまり部屋から出てこないので」


 ふむ……まぁちょいちょいと聞いてたけど、ルキナさんは部屋にこもっているんだね。

 この当たり前に語る感じ、無理矢理引っ張ってくるのはもうとっくに諦めてる。


 てことは出てくるまでの少しの間、あたしは本当にこのお屋敷に泊まることになりそう。

 まぁ、もうすぐ出てくるって言ってたしそれもあんまり長くはならないと思うけど。


「……ん?そういえばここには誰が住んでるの?」


 人はあまり住んでない。

 ちょっと不自然なセリフ。だってこの大きさ、人がいないなら誰が掃除や洗濯をしてるっていうのか。

 

 リリアンではない、リリアンではない。

 少なくともリリアンでは確実にない、大事な事だからリリアンである可能性は微塵も存在してない。


 他に可能性をあげるなら…………

 お兄さん?いやいや流石に男の人だし、洗濯等は手を出せないと思う。

 ならルキナさん?これもないよね、だって引きこもりなんだし、その為に他の人がいるんだろうし。


 ヒバナ……はないよね。リリアンと同じ感じ、それに加えて性格的にもそうゆう仕事がマトモにできるとは思えない。

 そして最初にリリアンを除外してるので、この場合は他の登場人物がいると考えるのが妥当ってことになる。


 嫌だなぁ……多分、マトモな人じゃないんだろうな。

 あまりに期待できない。いや期待を裏切ってくれるんだろうな……悪い意味で。

 人でなし……引きこもり、放火魔、不審者ときたら次はなんだろう。


 …………あれか、変態か。……いや師匠と被るな。

 幽霊とか?……んー、幽霊なら会ったことある。なんてこった、コッチに来てからの友好関係がとんでもないことになってる。

 なんならリリアンの中にもいる、残留思念みたいなのが。


「それは私の部下がしています。掃除洗濯、食事の準備

もお手のものです」


 リリアンの……部下?

 んー?なんか……珍しいな、いろいろと。


「部下?」


「はい、部下です」


「んー?」


 ちょっと分からなくなってお兄さんにも顔を向ける。

  

「あー……まぁリリの部下、になるの……か?」


 それはコッチが聞きたい。

 考えれば考えるほど、リリアンがしないような表現だ。


 そもそもなんの部下?

 あれかな、さっきまで考えてた新しい不審者候補が残念ながら実在してしまったということなのかな?


「一応……一応聞いとくんだけどさ、なんの部下?」

 

 あぁ……嫌だなぁ……

 多分、どんな答えがでてきてもこの厄介事感からあたしが救われる事はないだろう。


 あぁ、きっと一人はいるだろう、異世界のマトモな女神様。どうかあたしを救って下さい。

 どうかもう、トンチキな頭をした登場人物を増やさないで下さい。あとあのエセ天使に強めの罰を……


「セツナ、私のこの姿を見ても分かりませんか?」


 あれ?神様の数え方って〜人であってるっけ?なんてあたしの思考を遮るリリアン。その姿はいつもの姿。

 決して見慣れることはないと思っていたけど、どうにもすっかりきっかり見慣れてしまったメイド服。


 良いよね。うん、目の保養になる。

 この異世界……というか半分くらいはリリアンのせいで若干のフェティシズムをおぼえないこともない。


 …………若干だけどね?若干。


「私の正確な役職はメイド長なんです」


「…………」


 聞こえてきそう、むふー、って聞こえてきそう。

 良いことだよ、感情を表にだせるのは良いことなんだよ。でも……


 信頼してる、信用してる、なによりリリアンの事は心から頼りにしてる。

 でもこれだけは言わせてほしい……どうしても言わせてほしい……!


「嘘つけぇ!」


「本当です。こう……私は百のメイドを従える長なのです」


 絶対嘘だ、リリアンジョークに違いない。

 だってリリアンは格好だけなんだ、他にメイドがいるはずもない。いたらこんなになってない。


「埒が明きません、論より証拠。千の言葉よりも、真実を一度見せればいいだけのことです」


「おーけー、おーけー、それで決着をつけよう」


 分かってる、リリアンも引っ込みがつかないんだね?

 大丈夫大丈夫、あたしは優しく許すよ。なに、あたし達の仲じゃないか、いつものことだ。

 

「ただいま戻りました」


 豪華な装飾のされた扉に、リリアンか手をかける。

 大きさに相応しく、重い……けど不快感よりも身の引き締まるような感覚を与えてくれる音。


 それが響いて、お屋敷の中の光景があたしの目に映る。

 んー、やっぱり想像通り、いや想像以上の……ん?


「えぇ、えぇ……お待たせしました」


 …………なんだ……これは……!

 いや待って……んん!?



「か……か……」

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