第75話 前略、星空と質問と

「キレイな星空だなぁ……降ってくるような」


 できるだけ汚れの少ない瓦礫の上。

 あたしは星に手をかざし、元の世界にいたときのように星を表現する。

 そういえば、最後に見た空もこんなキレイな星空だった。

 

 一応の方針は決まった。

 明日に備えて、リリアンとポムポムはベッドが掘り起こせたのでそこで眠っている。ここでベッドを譲れるのが格好いい、とうぬぼれてみる。


「元の世界で見た空と同じなら、ネオスティアと繋がっているとか?」


 夢のある妄想だが、さすがにそれはないか。

 異世界ネオスティア。この異世界にも太陽がある、月と星もある。

 あまり詳しいわけではないが、元の世界と同じものならば、今見えているその光は、その姿は、何年も前のものらしい。

 その星はもう存在していない。


「あたしの人生と一緒かねぇ」


 ちょっとセンチメンタル。

 星空の儚さは力強さよりも弱々しさ、楽しさよりも寂しさ、なんだか生よりも死を感じさせる。

 こう表現するのは失礼な気がするが、星空は星の墓場とも言えるのではないだろうか。


 永く存在する恒星と違い、もう潰えてしまった小さな星。その光だけは生きてあたしに届く。


「あたしも誰かに届きたいなぁ」


 そんな生き方をしたい、誰かに何かを残して届かしたい。

 たとえ世界からしたから一瞬の光でも。


「眠れないの?」


 詩人であることを止めて、さっきからあたしの背後にいた月に話しかける。

 月と例えたが、あの人と対にするならだ、リリアンは十分に輝いている。 


「えぇ、そんな感じです」


 眠っているところを見たことないので、後で覗きに行こうと思っていたのだが、残念。


「それならしばらく話そうか」


 ……はい。少し間が空けてから答えて、隣に腰を下ろす。

 最近は眠る前に他愛のない話をすることが増えた。さてと、今日はなにを話そうか。

 

 ネオスティアの話をした。一見、継ぎ接ぎだらけに見える世界が好きだと、不思議で興味深いと。

 リリアンは答えた。私もこの世界が好きですと、継ぎ接ぎというのは良い表現ですね。と言った。


 元の世界の話をした。ネオスティアもいいけど、やっぱり帰りたいと伝えた、お別れは寂しいけど。

 リリアンは答えた。仕方のないことです、人には居場所があると、それでもいつかはまた会えると。


 趣味の話をした。異世界にしてはいろいろなものがあるけれど、テレビと映画がないのは寂しいと。

 リリアンは答えた。テレビも映画も知らないと、面白いなら観てみたいと、なら観ようと約束した。


 趣味の話を続けた。そういえば、リリアンにも趣味があるのだろうか?気になったので聞いてみた。

 リリアンは答えた。特にありません。だけどメイドらしく、紅茶を淹れるのは主人に褒められたと。


 趣味の話を続けた。料理の腕前は知っているから、褒められたのは味なのか、仕草なのかを。

 リリアンは答えた。味です。ちょっと誇らしげに、今度振る舞いますと、嬉しい約束だった。


 ポムポムの話をした。ここでもいい仲間に出会えた、ちょっとおかしいけど、いい娘だと。

 リリアンは答えた。あなたの周りはそんな人ばかりですね。全くだ、リリアンも含めてね。


 魔術の話をした。雷はでなかった、風には強いイメージを持てなくてちょっと残念と。

 リリアンは答えた。いいじゃないですか、あなたに合ってます。優しく、時に力強く。


 空の話をした。キレイだと思う。同時に儚さ、弱さ、寂しさを感じると。

 リリアンは答えた。儚さも弱さも寂しさも、それすらも星空の美しさと。


 死を感じさせると言った。星空は墓場で、そこからあたしに届いた光、そんな様になりたいと。

 リリアンは答えた。星は死と生の連鎖だと、潰えることよりも今を生きる事を考えるべきだと。

 

 今更ながら武器の話をした。その大剣はいつもどこから取り出しているのか、他の道具も込みで。

 リリアンは答えた。別の空間からですと、別の空間!?当たり前のような発言に驚きが隠せない。


 話を続けた。あたしは剣しか使えない、少しマンネリ気味ではないかと。

 リリアンは答えた。基礎は大事と前に言ったと、それに似合っていると。


 話を続けた。リリアンが謎の空間から大剣を取り出すのは、あたしと似ていると。

 リリアンは答えた。少し考えてから、そうですね。なんだろう少し嬉しそうだ。


 リリアンを月に例えた。戦っている時の強さと美しさに目を奪われたと。

 リリアンは答えた……否、答えなかった。何か言いたげにあたしを見た。 


「あなたは……何なんですか」


 順番も脈絡も無視した、明日になれば忘れてしまうような、そんな会話を終わらせて。なぜだか不安そうな顔であたしに問いかけた。 

 

 その質問は何度目だろうか、そういえば何か言いたげなのは最初からだった。 

 少しだけ風が強く吹いて、月に雲がかかる、そんな気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る