第51話 前略、爆破と壁登りと

「よくここまでこれたな」


「はい、頑張っちゃいました」


 あたしに背を向けて、青空を見ながらアニキさんは言う。

 学校の屋上。古くから決闘と告白といえばここしかない、あたしの目的はもちろん前者だ。

  

「やれやれ、下は大火事、さらに大混乱。よくもやってくれた」


 アニキさんはそんな昔からあるクイズのような言い回しで話し、振り返ってあたしに目を向けた。

 大火事は言いすぎだ、もう消火されているし、せいぜいボヤくらいだ。

 

「すみません、他の人を巻き込みたくなかったんです。できるだけ穏便に……やらかしちゃいました」


 ちょっとやりすぎた感があるけど。結果としてあたしも街の住人も、怪我することなくこの場を整える事ができた。良しとしよう。


 ほわんほわん、とつい数分前のことを思い出す。


「よし!どうせなら、憎たらしい職員室を爆破しよう!」


 あたしはアニキさんがいると思わしき屋上へ行くため、爆破を行うことにした。

 いや、おかしくなったわけではない。考え抜いた上の爆破だ。


「立ち直れた嬉しさから、少しハイなのかもね」


 作戦はこうだ。まず平和的に酒場からもらってきたお酒をセット。

 →騒ぎながら移動して注目を集める。

 →集まったら樽を爆破。

 →大騒ぎ。

 →安全に屋上へ。


 なかなかに考えられた作戦だ、そんじゃあ実行に移しましょうか!!!


「あたしはここにいるぞー!不良どもーー!」

 

 何度も繰り返し、叫ぶ。少なくとも一階の人は全員おびき寄せたい。


「女の子1人も捕まえらんないのかぁーー!」


 煽る煽る、ぞろぞろと不良たちが集まる。よし!いこう!


 『セツナドライブ』手に持った煙玉やらを上に放り投げ、周りの注意を引いてから駆ける!

 

 もちろん、煙玉は道具屋からくすねてきた、後で代金は払いにいこう。

 基本的にお金はすべてリリアンが管理してる為に、あたしは無一文だ。


 2歩で爆破をする部屋の前、というか窓の前までくる。

 職員室らしき部屋は見つからなかったが、それっぽい部屋を、職員室だとあたしが決めた。

 

「よしよし、誰もいないね?」


 窓から侵入、周りに誰もいないのを確認してからまた窓からでる。よし!爆破だ!


「ぽーい」


 自分でも気の抜けた声と共に樽に火薬を投げつける。数秒後に爆発するだろう。


 言葉にできない、なぜなら全然燃えない、お酒は燃えるのでは……?


 ……考えた挙げ句、残った火薬を叩きつけて、少しでも火を起こす。

 予備で持ってきた酒瓶を投げつける。こんな小さな酒瓶で大したことが起こるとは……


 轟音。えぇ、爆破されました。

 思ったより爆発して階段が消し飛んだ。


 周りから様々な声が聞こえる。そりゃそうだよね、だって要塞が爆破されたんだもん。


 さて、浅はかすぎた行動によって階段は消し飛んだ。どうしようか?

 

「登るか!」


「スキルポイントを15消費して、【初級壁登り】を習得しました」


 ポーン、いつもの気の抜けた効果音でスキルを習得。

 いつもは没収されてるけど、スキルボードさえ手元にあればこっちのもんよ。

 ……リリアンには使えそうなスキルだったと言い訳しよう。

 この戦いが終わるまでの宿題として言い訳を考える、残ポイント0の表記をを視界に入れないようにしながら。


「めちゃくちゃ疲れる……」


 壁を登るって楽じゃない、いい加減に上級とか、高ランクのスキルが欲しいけど……


「苦労してる方があたしらしいか!」


 なんだか立ち直ってから、あたしらしい、という言葉に親しみを覚える。


 思えば、あたしにはあたしを見つめ直す時間が、必要だったのだろう。


 そろそろ回想が現実に追いつく。さぁ格好良く屋上へ行こう。

 ここからはリベンジと戦いと話し合いの時間だ。

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