第49話 前略、名前と帰還と

「いや、一緒に行かないの!?」


 階段を走るあたしは少し前に、共に戦った金髪を思い出して叫ぶ。今更ながら。


 現在。あたしは1人だ、地上への階段を1人で走ってる。

 はて?あの流れだとギンも一緒にいるはずだけど、なにがどうしてこうなった。

 

 ほわんほわん、と回想が始まる、階段を登りきる前に思い出そう。


「悪いな、セツナ。俺は行かねぇ」


「え、なんでよ」

 

 戦いを終えて、足を速めたあたしの後ろから、ギンがそんなことを言い出した。

 あたしも思わず急ブレーキ。


「ここで3人で話し合ってみるよ。この街の事とかさ」


 そうか、それなら仕方がない。迷って自分を整理する時間は必要だ。

 ……それにほら、愛の話とかもあるんでしょ?

 戦闘中に聞いてきたくらいだし、友達の恋路に良い結果があることを祈ろう。


「……なんか変なこと考えられてるような気がするんだが。まぁいいか、それよりよ!」


 友達の恋を心の中で祈っていると、ギンが興奮気味に詰め寄ってきた。

 びっくりした。危うく、剣を抜くところだった。


「『セツナドライブ』超!格好良いじゃねぇか!」


「だよね!」


 心の友がいた。ずっと信じてた。


「やっぱりあれか?自分の名前が入ってるところが自分だけの必殺技!感を強めてるよな!」


「おぉ!分かってくれてる!」

 

 嬉しい、思わずハイタッチ!

 なんだろうこの嬉しいの、今までダサいダサいと言われ続けた身としては、ついに報われた気持ちでいっぱいだ。


「クッソ!盲点だったぜ!俺も新技には自分の名前入れるか!」


「いいんじゃないかな!高らかに叫ぼう!」


 しばらく考えて、あたしの心の友は閃いたような顔で。


「The・シルバーファースト」


「かっけぇぇええ!」


 なるほど、銀一でシルバーファーストか、それこそ盲点だった。

 あたしも刹那を英語にしようかな?……なんて言うんだろ?


 今更ながらネオスティアには、いろいろな文字がある。

 まさに異世界語!って感じのが5割程。あたしのいた世界の文字が4割程、残り1割はよくわからない、文字かどうかも判断つかない。

 つまり、今のところ半分くらいは読めない。リリアンに読んでもらっている。


「なんか違和感なく受け入れてたけど、異世界だけど漢字もあるんだよね」


 普通の異世界に漢字や英語はないだろう。もちろん平仮名と片仮名も。


「う〜ん、今更ながら名前、漢字にしようかな?」


 口に出して考える。なんか異世界への先入観から『セツナ』を名乗っていたけど、ネオスティアにおいて『刹那』でもなんの問題もない。


「書くの面倒だし、このままでいっか」


 実は昔から絶妙に画数が多いのが不満だったのだ。

 結論。今の方が楽。


「よし、そろそろ行くよ!」

 

 1つの考えが纏まり、一区切りついたところで先に進む意志を固める。


「俺が言っていいのかわかんねぇけどさ、頑張れよセツナ!」


「りょーかい。行ってくるよ、シルバー!」


 格好良く返す。最高にイカすコードネームと共に。


「あぁ!任せたぜ!モーメント!」


 なるほど、刹那はモーメントか。

 ……なんでギンの方が詳しいんだ?元の世界に帰ったら英語を頑張ろう。


「回想終了、今回は早かったね」

 

 自分に語りかける。そんなこんなで出口が見えたので飛び込む。


「あたし、帰還!シャバの空気はおいしいな!」


 1度は言ってみたかったセリフを言えて、あたしは大変満足だった。

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