第23話 前略、絶望と再起と

「折れたぁぁあああ!!!」


 あたしの必殺技は、渾身の『セツナドライブ』は、深い傷を残した……あたしの心に。


「待って待って!折れるの!?」


 あたしは半分になった大剣に叫ぶ。聞いてないよ!こんなの!


「いや……そりゃあ折れるでしょ……」


 いつもハイテンションなリッカも、呆れた表情。主人公の武器は特別なはずでは……?


「ねぇ?今のが必殺技?このタイミングで出すやつ?」


「だってあれしか必殺技ないし……」


 リッカからの追求が止まらない。そろそろ許して。


「普通さ、このタイミングの必殺技っていったらさ、なんか魔法的なエネルギーとかオーラとか剣に纏って斬るとかじゃん……」


 そんな技能はないのだ、勘弁して……


「そりゃ折れるよ……名前もダサいし……」


 いつものリッカとは思えない厳しい言葉。本当に、つい数分前までのテンションはどこにいったのか。

 ……でも名前は格好良いから!


「すみません……僕もビーム的な何かを期待……しました……!」


「本当にごめんって!」

 

 謝りながら、石像に向き合う。折れた大剣をしまい、片手剣を取り出す。

 突破口のみえないまま、防戦一方の戦いは続く。


 あれからどれくらい時間がたったのだろう。10分か30分が1時間か。


 あれから何度剣を打ち込んだだろう。10回か100回か1000回か。


 何度の銃弾が、何度の魔法が、石像に浴びせられただろう。そのただ一つも成果を上げることはできなかった。


「さすが石像、硬いね」


 1000回でダメなら10000回打ち込めばいい、諦めるにはまだ早い。


「もう……だめかもしれないね……」


 俯いたリッカの声、さっきからこんな暗い声しか聞けてない。

 確かにピンチだけど、まだ何も終わっていない。


「なに言ってるのリッカ、まだ諦めるには……」


「すみません……!僕が遺跡への護衛なんかを……!」


 口々に仲間たちは、リッカとラルム君は諦めの言葉を吐く。


「なにやっても意味ないし、勝てないし……」


 それに……本当に人生の全てを、諦めたような口ぶりで。


「もう夢もないし……やっぱりダメだった……」


 夢……賞金稼ぎのことだろうか。いや、リッカの事だもっとシンプルに、正義の味方とかに憧れたのだろう。


「正義の味方になりたかった……でも怖くて諦めた。なにか見つけたかった、なにも見つけられずに死ぬんだ……」


 僕も……とラルム君も語りだす。


「僕も……身の丈に合わない夢だった……ドラゴンの背に憧れた僕は、こんな偽物のドラゴンに踏み潰されて死ぬんだ……」


 2人とも……確かに、人は目的や目標を失うと後ろ向きになるのは分かる。

 でもこの諦めるぶりは異常だ。だってまだ……


「どうせ諦められてる学問なんだ、1人で追うのが間違いだった」


 ラルム君後悔は続く、リッカの絶望も。

 そして2人は言ってはいけないことを言う、あたしの前で。


「「諦めない理由もない」」


「うるさいよ!」


 もう我慢の限界だった、黙って聴いていれば。

 最初は立ち直らせようとした、優しい言葉で。


「なんでそんな簡単に諦められるのさ!そっちのがわっかんないよ!」


 悪いけど、あたしは1度は夢破れたくらいで諦めない。いや、夢を失った事はないけど大切なものを失った事はある。

 あたしの基準を、人に押し付けるのは間違ってる。でも!


「簡単にだなんて……!」


「簡単にだよ!死んだこともないくせに諦めるな!」


 我ながら無茶苦茶言ってるのはわかってる、でも止まれない!


「夢を1人で追えないならあたしも一緒に追うよ!いつか叶えてあたしも背中に乗せてよ!」


 あんなに素晴らしい夢があるんだ、こんな石像なんかに阻まれる夢じゃない。


「夢がないならあたしも探すよ!2人だったらすぐにみつかる!だから笑ってよ!」


 正義の味方、いいじゃないか。

 その陳腐な響きには、夢がたくさん詰まってる。もしそれを叶えられなくても、次に見つかるリッカの夢は形は違えどきっと正義の味方だ。


「諦める諦めるって!そんな暇があるならあがこうよ!だって……」


 だって……だって……


「まだ生きてるじゃん!それなのに諦めることほどダサいことってある!?」


 あたしとしては、生きている。それだけで素晴らしい、なにも諦めたくない。


「陳腐な響きだけどさ、明日は前にしかないんだよ」


 いい言葉だ。あたしの好きな言葉で、伝えたい言葉だ。

 言いたい事は言った。あとは2人次第だね。


 1人でも諦めない、その意志を示すため構える。ほんの一瞬だけ、また昔の記憶がみえた気がした。

 前を向くのに邪魔だったから頭の片隅に追いやった。


「あたしにもまたみつかるかなぁ……」


 隣に立ち上がってくれたリッカ。


「当たり前だよ、2人だし人生は長い」


「僕は……諦めなくていいのかな……」


 隣に1歩、踏み出してくれたラルム君


「当然、あたしの分もあるんだから、一緒に追おうよ」


 さぁ、仕切り直そう。生きる為に仕切り直そう。

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