第91話 『大迷宮』20階層到達。進化の祭壇へ


 20階層への階段前にあった宝箱は、大きさはいままでの宝箱と同じで、奥行き30センチ横幅50センチ高さ30センチほどで、かど部分や持ち手の部分も同じように金色の金具でできていたが、材質は銅ではなくおそらく銀で出来ているようだ。


『今度の宝箱は豪華そうだな。中身に期待だが、あせらず持って帰って鑑定石で鑑定してから開けよう。トルシェ、収納しておいてくれ。……、それじゃあ階段を下りよう』


「はい。これで『新階層チェック球』を20にセットしたら今回のミッションは完了ですね」


『下にりたら、少し休憩してから帰ろう。アズラン、いままでの道は覚えているんだろ?』


「はい、問題ありません」


『俺なんか全然覚えられないけど、アズランはすごいな』


「子供のころさんざん訓練しましたから」


『ふーん。どちらにせよ才能があったんだろうな。そういうアズランが俺たちの仲間になったのは運が良かったぜ』


「アズラン、これからもよろしくね」


「はい! フェアともどもよろしく」



 階段を300段下りた先は、いままでの洞窟型のダンジョンと違い、俺たちの拠点のあるダンジョンと同じ、黒っぽい石組み型のダンジョンだった。通路をつくる石がかすかに発光して真っ暗ではないが、当然明るいわけではない。


『ほう、これが20階層か。久しぶりの石組みの階層か。あらためて見てみると、通路がまっすぐ走っているから向こうまで見渡せるが、向こうからもこっちが早いうちに見えるから、善し悪しだな』


「『新階層チェック球』、20にセット終了!」


『それじゃあ、脇に寄って、一休みしよう』


「はーい」「はい」



 俺は鉄箱の中のコロに取り出した水袋から『暗黒の聖水』を。アズランは木の実をフェアに。トルシェは、黙って木の実をかじっては、殻をコロにやっていた。


 しばらくそうしていたが、


「ダークンさん、そろそろ戻りませんか?」


『俺はいつでもいいんだが、アズランはどうだ?』


「はい。問題ありません」


『それじゃあ、戻るか。一度「進化の祭壇」に寄ってから、拠点に戻って、そこからギルドに行こう』



 すぐに、出発の準備を終えた俺たちは、階段を上り、19階層へ。


 そこからは道を覚えているアズランのおかげでかなりの速足はやあしで進むことができ、18階層、17階層、……、一度休憩して第5階層までたどり着いた。途中出会ったモンスターは、トルシェが瞬殺しゅんさつしていった。


 他の冒険者たちに出会うようになっても、出会う連中はちゃんと俺たちに道を譲ってくれるので、速度を落とさず進むことができた。


 そして、いつもの孔をくぐりり抜け、碁盤ごばんの目。緑ゴブリンのペアをたおしながら、下り階段までたどり着いた。


『ようやくここまで帰ってこれた。階段の上からどんよりとした瘴気しょうきをのぞき込むとなんだか心が落ち着くな』


「今回はちょっと遠出でしたから、懐かしいですね」


『よーし、あともう少しだ』


「はーい」「はい」



 瘴気の中、フェアは大丈夫なのかとすこし心配だったが何も問題なかったようで、今も階段を下るアズランの頭の周りを飛び回っている。



『先に進化の祭壇だ』


 さーて、俺もそろそろ進化していないかな? 期待いっぱいだ。


 トルシェは今まで進化を先送りにしていたから、進化確実。


 アズランも進化しそうだ。




 黒スライムを歩きながらプッチしつつ、『進化の祭壇』のある広間にやって来た。


『それじゃあ、今回はトルシェからいってみよう』


 部屋の真ん中に立っている先端に炎をともした円柱にトルシェが進み寄って、側面に刻まれた文字に左手をあてた。


『はい』と、トルシェが答えた声が頭にひびいた。


 いままで褐色の肌だったトルシェの姿が一瞬ぼやけたと思ったら、またもとの色白な肌色に戻ったようだ。


 何に進化したのかは分からないが、見た目の感じは少し大人びた美人になったようだ。


『トルシェ、何に進化したのかは分からないが、肌の色が白くなってるぞ』


「わっ! びっくりしたー。でも、これもいいかな。ダークンさん、今回は次の進化先が分かりました」


『ほう、その進化先は?』


白き至高グウィン・ハイネスというらしいです」


『聞いても分からんな。トルシェ、おまえの場合もう一段進化できるかもしれないから、もう一度文字を触ってみろよ』


「それじゃあ、もう一度」


『はい』と、トルシェが答えた声がまた頭にひびいた。


 今度のトルシェは、先ほどとはくらべもののないほど、真っ白になった。これが、『白き至高グウィン・ハイネス』か。詳細は鑑定石だな。とにかく、怖いくらいの美人さんになった。俺には関係ないが、まだ幼さが少し残っているところがぐっとくるものがある。ような気もする。


『今度は真っ白になったが、どういった感じだ?』


「なんだか体は軽くなったし、今なら何でもできちゃいそうな気分です」


『無茶はしないでくれよ』


「はい『白き至高グウィン・ハイネス』グフフ。なんだかカッコいい!」


『それじゃあ、アズラン、次はおまえだ』


「はい、フェアちゃんはおとなしくしててね」


 肩の上に、フェアを乗せて、アズランが石の文字に手を当てた。


 トルシェの時と同じように、『はい』という声が響き、


 トルシェの時と同じように、色白の肌をした、小柄な女の子がそこに立っていた。


『アズランも、色白になったぞ』


「ほんとだ! 私も、次の進化先が分かりました」


『何に進化するって?』


「はい。蒼き至高アズール・ハイネスというらしいです」


『アズランも、もう一度進化するかもしれないから、文字を触ってみろよ』


「やってみます」


 アズランがもう一度、石に刻まれた文字に手を当てた。


『はい』。やはり進化できたようだ。


 アズランは、見た目白を通り越して青白い肌の妖艶ようえんな感じの美女になってしまった。こちらも、幼さを残しているため、一部の連中の需要が高そうだ。


『アズラン、どうだ?』


「すごく体が軽くて、力が湧いて来る。そんな感じです」


「アズラン、カッコいー! 名前の蒼き至高アズール・ハイネスもカッコいー!」


 アズランの進化を喜んでいるのか、フェアがしきりにアスランの頭の周りを飛び回っている。



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