第61話 鎧装ナイト・ストーカー


 思わぬ残業代を得て、ほくほく顔のトルシェと、釈然しゃくぜんとしていない顔のアズランとともに宿屋に戻った。


 宿屋の出入り口の扉は開いていたが、受付にはさすがに人はおらず、カウンターに置いてあったベルを鳴らすと、眠そうな顔をしたおばちゃんが奥から出てきた。トルシェがおばちゃんに部屋番号を告げて、預けていた鍵をもらい部屋に戻った。


『今日も、面白い一日だったなー、トルシェもかたきを討てたし、臨時収入もあったしな』


「今日は、いままで生きてきたなかで、最高さいっこーの一日でした。それもこれもダークンさんのおかげです」


「お二人のおかげで、死なずに済みました。あらためて、ありがとうございます。ターゲットの死亡は確認できませんでしたが、生きていようと、死んでいようともうどちらでもいいです」


『俺たちは仲間だから当然だ。ターゲットを殺しに行ったことを途中からすっかり忘れてしまって宝さがしにきょうじてしまった。まなかった』


「いえ、気にしてませんから大丈夫です。あんなのを見せられたら、暗殺なんて無意味だったってことが良く分かりました」


『無意味とは言わないが、アズランも俺たちと一緒にいれば、強くなるだろうからそこは期待しておいてくれ。トルシェも疲れていないと思っていても、疲れがたまっているだろうから、もう寝ろ。寝れなくても目を閉じて体を休めておけ』


「はーい」「はい」


 10分もしないうちに二人の寝息が聞こえてきたところを見ると、やはり疲れていたようだ。




 俺は相変わらず何もすることもないし、夜な夜な宿屋の中を探検することはできないので、二人の寝顔を交互に見ていたら、外が明るくなって来た。朝になったようだ。


「ダークンさん、おはようございます」


「おはようございます」


『おはよう。おまえたちは顔でも洗って、朝食を食べてこい』


「そうします」


「ダークンさんはいいんですか?」


『俺はいいんだ、スケルトンの俺は食べることも飲むこともできないからな』


「気づけずに、すみません」


『俺は平気だから気にするな。早く行ってこい』


 二人が部屋を出て行き、俺も昨日きのうの立ち回りを思い出して、たまには鎧についた汚れを落とそうかと思いたち、部屋にあったタオルで鎧を拭こうとしたのだが、どこも汚れていない。あれだけリンガレングの巻き起こした粉塵ふんじんが降りかかって来たのだがホコリ一つついていなかった。


 やるじゃないか。


 念のため、外していたヘルメットとガントレットも見てみたが、鎧と同じように汚れていなければホコリもついていなかった。便利なものだ。そう言えば、歩くたびにガシャガシャいっていた音も、ここのところしなくなっている。俺の体にくっ付いてしまったのが良かったのかもしれない。


 ここまで、よくやってくれている鎧だ、そろそろ名前を付けてやるのも悪くない。


 うーん。俺の黒鉄くろがねの鎧。うーん。闇、黒、夜、……、ナイト。


 ……、ひらめいた!


鎧装がいそうナイト・ストーカー』これだ!


 おおお、名付けた瞬間しゅんかん、一瞬だがナイト・ストーカーから闇のオーラが立ち上った。ような気がする。


 俺は、ナイト・ストーカーをまとう『闇の眷属』、ダーク・ナイト、オブシディアン・スケルトン、ダークン!


 ちょっと長いが十分C2シーツー界隈かいわいで通用する名前だ。


 それでは次は武器の点検ということで、腰の『エクスキューショナー』を抜き出して、剣身を調べてみた。『エクスキューショナー』は刃こぼれ一つないばかりか、黒味にすごみが増している。すごみとはなんとも曖昧あいまいな言葉だが、刃を見ていると引き込まれるような何かを感じる。


 エクスキューショナーを鞘に仕舞い、次は『リフレクター』を確認してみた。


 こいつも、黒味とすごみのアンサンブルだった。


 ついでに、最近出番のない『スティンガー』。これは、出番がなかっただけあって、見た目はあまり変わっていなかった。


 しばらく、そうやって遊んでいたら、トルシェとアズランが部屋に戻って来た。


「あれ、ダークンさん、どうしちゃったんです?」


『どうとは?』


「ダークンさんの鎧、何だか赤い筋が出てますよ。禍々まがまがしさ倍増ですね。いいなー」


『おっ、ほんとだ。今、気がついた。ここのところかなり世話になっているこの鎧にも名前を付けてみたんだ』


「どんな名前です?」


『「鎧装がいそうナイト・ストーカー」だ』


「おお、すごい! カッコいいー」


『そうか? そうだろ。ハハハカタカタカタ


 禍々まがまがしさ倍増の俺に対して心底しんそこうらやましそうな顔をしているトルシェと、何と言っていいのか分からないアズランが対照的だ。


『「大迷宮」に戻るにしても、冒険者ギルドのカードが必要だから、アズランを登録させに行くか? アズラン、冒険者カードは持ってないだろ?』


「持っていません」


『それじゃあ、ギルドに先に行って、そのあと、鍛冶屋かじやに行くか』


「鍛冶屋ですか?」


『ああ、前に言ってたろ。スライム用のバケツの話』


「本当にスライムをうんですか?」


『飼うといえば飼うんだが、テイムな』


「あのー、スライムを飼う? テイム?」アズランが疑問に思ったようだ。


『俺たちの元の拠点の周りにいっぱいスライムがいるんだが、そいつをテイムできないかと思って、かご代わりに、金物かなものでできたバケツを鍛冶屋で作ってもらおうと思ってな』


「ダークンさんは、本当にとんでもないことを思いつく人なんですね」


ハハハハカタカタカタカタ、人ではないがな。それじゃあ、そろそろギルドに行こう』


 俺は、ヘルメットと、ガントレットを忘れずに装備して二人を連れて部屋を出た。アズランには、トルシェの予備の普段用の靴があったので無理にでもかせてやった。


 宿屋のカウンターには女の子が座っていたので、その子に鍵を返して、宿を後にした。



 冒険者ギルドに三人で向かって歩いているのだが、道行く連中が明らかに俺たち、正確には俺を避けている。VIPヴィップはつらいぜ。


 ナイト・ストーカーの赤い模様もようなのだが、朝日の当たった部分ではまるで目立たない。そのかわり陰になった部分だと薄っすら赤く光っているのがわかる。ダンジョンの中とか夜の街中だとさぞや迫力がありそうだ。


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