第18話 救出、回復


 前方で緑のゴブリン2匹相手に6人がかりで戦っている。意外とゴブリンが善戦ぜんせん中だ。というより、ゴブリンが押している。6人組が弱すぎる?


 俺は、戦いを近くから見ようと腰をかがめ壁際に沿って気付かれぬようにゆっくり忍び寄って行った。


 そしたらいきなり、一番大柄な男が手に持った槍で小柄な弓持ちの足に槍を突き刺して、さらにゴブリンのいる方へ蹴飛けとばしてしまった。その小柄な弓持ちを残したまま残りの5人が一目散に俺の方に駆けて来た。どうなってんだ?


 暗がりでうずくまって小さくなっていると、5人組が自分たちの放り投げていた荷物を拾い上げ目の前を走って通り過ぎて行った。どうやら気付かれずに済んだらしい。


 一匹のゴブリンが、蹴り飛ばされて目の前に転がり出て来た小柄な弓持ちにこん棒で一撃いちげきを加えた。その一撃で弓持ちは死んだかもしれないが、ここからではわからない。


 そのゴブリンが弓持ちを担ぎ上げて、二匹そろって「グギャグギャ」言いながら、元来た方に戻って行った。


 仲間ちか? 振り返ると、先ほどの5人が角を曲がって見えなくなるところだった。


 殺伐さつばつとした連中だ。見つからなくてよかった。


 しかし、あのゴブリン相手に苦戦していたとなると、初心者みたいな連中だったのか? それにしてはガタイもいいし装備もちゃんとしていた。顔つきもいかにもな歴戦れきせんの勇者的雰囲気ふんいきを醸し出していたんだが、見掛みかだおしだったようだ。


 さて、ゴブリンの運ぶ弓持ちをどうするか? もし生きていたら、助けてやれば少しは恩に着るかも知れないし、なにより情報が聞き出せるのではないか。


 死んでいるとしても、なにか有用なものを持っている可能性が高い。少なくとも着ている服はぎ取ることができる。少し小さいが何かの役に立つだろう。


 やるならゴブリンが油断しているだろう今がチャンスだ。


 揚々ようようと戦利品を担いでゆっくり歩いて行くゴブリンたちの後ろを、いつもの腰を落とした姿勢で追いかける。15メートルほど近づいたところで、腰に差したスティンガーを引き抜き、弓使いを担いでいない方のゴブリンに狙いをつけて投げつけた。


 ゆる放物線ほうぶつせんを描いて、スティンガーは飛んでいき、音もたてずにゴブリンの首の骨辺りに柄元つかもとまで突き刺さった。そのまま、そのゴブリンは声を上げることなく膝をつきそのまま前のめりに倒れてしまった。


 俺は超低姿勢から中腰になって残ったゴブリン目がけてスピードを上げる。


 俺に気づいたゴブリンが、かついでいた弓使いを放り投げ、俺の接近に備えて身構えた。


 弓使いはまだ生きていたようで、投げ落とされた衝撃から気絶から目覚めたようだ。体をわずかに動かしているが、先ほど槍で刺されたところ以外もいためているようだ。


 俺はいったん立ち止まり、中腰から元の姿勢になり、ゴブリンを睨みつけた。


「グギャギャギャギャー!」


 こん棒を振り上げたゴブリンが俺に迫ってくる。


 ゴブリンは右手に持ったこん棒を、俺が間合いに入った瞬間に俺の大事な頭、それも顔に向けてたたきつけて来た。


 横殴よこなぐりに左側から振られたこん棒に、軽く左手のリフレクターを合わせてやると、ゴブリンのこん棒は後ろに吹っ飛んでいった。


 大きく目玉を見開いたのを最後に、ゴブリンの頭は俺の右手のエクスキューショナーの一振りで首から切り離され、勢いよく吹き出る緑色の血に押されて幾分浮き上がったあとで通路の床に鈍い音をたてて転がった。


 やっぱりこいつら相当弱いよな。とすると、あの連中は相当の逆猛者ぎゃくもさか?


 逆猛者ぎゃくもさの言葉が自分に受けてしまい、つい笑い声をあげてしまった。


カカタタタタわははは


 ゴブリンから腰布こしぬのぎ取り、最初に殺したゴブリンのところでスティンガーを回収して、そいつからも腰布を回収した。


 さて、そばで転がっている弓使いはどんな塩梅あんばいだ?


 様子ようすをみようとしゃがみこんで、弓使いを観察する。


 銀色の長い髪が床に広がっている。きゃしゃな体つきの女の子だ。死んではいないようだが、意識はもうろうとしているようだ。槍で刺された足からだけでなく、変な方向に曲がってしまった右腕からも血を流している。


 背負いやすそうな体勢にもっていこうと、ぐったりとして半分意識のない弓持ちの女の子を手で支えながら座らせ、自分の背中に乗るよう後ろを向いて俺も座り込み、何とか背負いあげることができた。


 いったん床に置いたリフレクターとエクスキューショナーを手にして、女の子を背負って立ち上がった。不自然な体勢だったが特に重くは感じなかった。ずいぶんこの体は力があるみたいだ。


 何となく助けた。と言うか、女の子を背負っているのだが、さて、これからどうしたものか?


 いったん下の階層におりて、少し遠いが池のあったところにまで行って傷口でも洗ってやれば少しはいいかもしれない。放っておくと傷口が化膿かのうするかもしれないからな。先ほどまで足から流れ出ていた血も止まったようだ。


 ここの通路はおそらく碁盤ごばんの目のようになっているのだろうが、確認しているわけではない。いったんあの孔の開いたところまで戻って、そこから来た道を引き返して下り階段を目指そう。引き返す途中、女の子の使っていた弓と大き目のリュックを忘れず拾い上げておいた。


 彼女をおぶって1時間ほどかかって、下層への階段にたどり着いた。


 左腕は女の子の左腿ひだりももかかえた上に背負い紐に腕を通してリュックをぶら下げ、手にはリフレクターを持っているし、右手は、エクスキューショナーと弓を持って女の子の右腿みぎももを抱えているので両手はふさがっている。


 ここまでの間ゴブリンなどに遭遇そうぐうしなかったことは運が良かったようだ。


 下層への階段を上からのぞき込むと、来た時と同じように何だか黒くかすんで見える。これがいわゆる『瘴気しょうき』だとすると、生身の人間には悪影響がある気もするがどうなんだろう?


 少しずり下がって来た女の子の体をよっこらしょとすり上げようとしたところ、俺の左手の薬指にはめた金の指輪がかすかに光っていることに気がついた。女の子の両腕は俺の胸の方に出して垂らしているのだが、彼女の右手にも金の指輪がはまっていたようで、その指輪が同じようにうすぼんやりと輝いてる。


 指輪の輝き始めたのは何か意味があるのだろうが、いまは見当がつかない。拠点の鑑定石まで連れていけば、なにがしかの情報が得られるかもしれないが、前回この左手の指輪の鑑定が不発ふはつだったこともあり期待薄ではある。


 下り階段をゆっくりと下りていく。長いよ。長すぎだよ。この体でなかったら、こんな階段ののぼりなどできないぞ。


 階段をしばらく下りていると、俺の指輪と彼女の指輪双方の光が強くなってきた。いまでは周りを照らすほどだ。何なんだ?


 目の前でだらりとぶら下がった彼女のけがをしている右腕が、背負った時にはたしか青白く血の気もうせていたはずだが、いまは血が止まった上に、皮膚ひふの張りも出て血色けっしょくがよくなって来たような気がする?


 信じられないような回復力だな。


 よく見ると彼女の足も傷跡がふさがりつつあるようだ。どうも俺たちのはめた指輪のなぞパワーが働いた気がする。いまは確かめようがないがきっとそうだ。『闇の眷属』のかんがそう告げる。


「『闇の眷属』の勘」は言ってみたかっただけの言葉だが、おそらく間違いないだろう。


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