第50話


 咲は苦笑をもらしながら、頬をかいた。


「ええ、まあ。ですが、友人ですから。先ほどのようなか、彼氏とかではありませんね」

「……で、でもだって咲ってほとんど男子と関わらないというか、それなのに、男の人と出か

けたの?」


 女子生徒の興味津々といった様子に、咲は苦笑を返した。


「ええ、まあ。最近親しくさせていただいている方ですから」


 にこり、と女子生徒に微笑みかける。

 多少の恥ずかしさはあったが、そこで下手に言葉を詰まらせると余計な勘繰りをされる可能性があったため、咲は堂々と話してみせた。


 そんな咲の様子に、女子生徒たちは口元を緩める。

 そして、男子生徒たちはどこか絶望したような声をあげた。


「……どうしたんですか?」

「いやぁ……だって、咲が男子とそんなに仲良くしているってだけでもクラスの冴えない男連中からしたら絶望的でしょ?」

「……えーと、どういうことですか?」

「はは、まあ咲は気にしなくていいって! 仲良くいくといいね、その男の子と」

「そうですね……それは本当におもいます」


 噛みしめるように咲がいうと、女子生徒がぎゅっと咲を抱きしめた。


「な、なんですかいきなり!?」

「いやぁ、今の恋する乙女みたいな表情可愛いと思ってね!」

「恋する乙女って……そういうものではありませんよ」


 冷静に指摘したが、女子生徒からは誤解されたままだった。



 〇



 放課後になり咲は一緒に真由美と帰っていた。


「なんだか、学校で凄い話題になってたね」

「……私が誰と仲良くしようともいいじゃないですか」

「それだけ、咲っちがモテモテってことでしょ?」

「……好意自体を否定はしませんが、それほどたくさんに好かれても困りますよ」

「あはは、それはモテない人を敵に回すね!」

「……だって、事実ではありませんか」


 ぶすり、と真由美にそう返した。それからしばらく歩き、十字路で真由美と別れた。


「それじゃあ、また明日ね」

「はい、またあした」


 真由美と別れたあと、一人マンションへ向かって歩いていた。

 そして、治が暮らしているというアパートの前に来て、足を止めた。


 自然と目が治の姿を探していた。

 ここ最近、治が暮らしているアパートの前につくと、いつもこのように姿を探してしまっていた。


 その行動の理由は簡単だ。一目でも治を見かけられる可能性をあげられるかもしれないからだった。


 今日ももちろん咲は彼の姿を見つけられず、小さくため息をついた。

 そうして、アパートの前を立ち去ろうとしたときだった。ある一室が開いた。そこから姿を見せたのは治だ。


 驚いた咲が嬉しくなって、声くらいはかけようかと一歩アパートへと向けたところで、止まった。

 その後ろから、一人の綺麗な女性が現れたからだ。


「ちょっと、治ー! ほんと部屋汚いんだから!」

「……別に、このくらい男子高校生には普通だから」

「まったく、月一で来ているとはいえ、毎回大掃除しているような感じじゃない。ちょっとは気にしなさいよね」

「……気にはしてるって」

「なら行動で示しなさい! うわっとと!」


 両手にゴミ袋を持って階段を降りようとした女性が、階段を踏み外した。

 下にいた治がすっとそれを受け止め、女性の顔を見て優し気な笑みを浮かべた。


「って、危ないな……まったく、怪我はないか?」

「危ない原因作ったのはあんたなんだから! まったく!」


 そうはいうが女性がそう声をあげた。

 しばらく咲は治とその女性を見て、それからだっと駆け出した。


(か、彼女!? で、でもいないって言っていたけど……も、もしかして島崎さんのことが気になって、押しかけてきている女性とか!?)


 思考が滅茶苦茶になった咲は、涙を目にためながら必死にマンションへと逃げ込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る