第31話 支援術士、状況を理解する
【なんでも屋】をあとにした俺とアルシュが向かったのは、そこからすぐ近くにある冒険者ギルドだ。
ジレードの話によると、手首切断事件の犯人は俺で確定みたいなことになってて、依頼ランクもどんどん上がって一時はSSSランクまで上がってたそうだからそれを見に来たんだ。
ただ、こういうのはコロコロ変わるのが普通だからな。現状はどうなってるかを知ることで、冒険者たちのこの事件に対する熱の入れ具合を測り、今後俺たちが大胆に動いていいか、あるいは慎重に動くべきかどうかがわかるってわけだ。
依頼を受ける者が多く、さらに達成者が出ない日々が続くとランクはどんどん上がっていくが、新規に受ける者がピタリとやむと人気がないってことで驚くほどランクも下がっていくという仕組みだ。
しかし、貼り紙のある掲示板周辺は冒険者でごった返していて、どんな依頼があるのか見ることすらできない状態が続いており、野次や怒号が飛び交って殺伐としていた。
「人が多いね、グレ――イセル」
「そ、そうじゃな、アル――シュナ」
アルシュ、俺の名前を普通に呼ぼうとしてて結構危ないところだったな。俺もだが。
ギルド内はかなり不穏な空気が漂ってて喧嘩さえ発生しそうになってるので、俺はこっそりバレないよう、回復術で付近にいる冒険者たちの精神をリフレッシュさせておいた。
それが功を奏したのか、徐々に人の波も穏やかになっていって、まもなく俺たちも依頼の貼り紙を目にできるようになる。
「「……」」
二人で目を凝らして探すと――あった。手首切断事件についての貼り紙。
何々――連続手首切断事件を起こした凶悪犯、【なんでも屋】のグレイスを捕まえて駐屯地に引き渡してほしい。本人が【支援術士】なのである程度怪我をさせても構わない。ランクはSで、報酬は金貨10枚――か……。
「この様子じゃと、まだまだ熱は冷めとらんみたいじゃな」
「だね」
事件についての聞き込みとかは怪しまれそうだからできそうにない。ただ、SSSランクからはかなり下がってるので、もうしばらく待てばかなり動きやすくなるだろうってことで、俺たちは一度隠れ家の墓地に戻ることにした。
「――待て、お前ら!」
「止まれ!」
「「えっ……?」」
帰路についてからしばらくして、後ろから冒険者らしき二人組の男に呼び止められる。まさか、グレイスだとバレたのか? 妙だな……。変装してるし、念のために人気の少ない道を選んだっていうのに。
「手首切断事件の犯人【なんでも屋】のグレイスと、その仲間だな?」
「大人しくしろ! 痛い目に遭いたくないならな!」
「「……」」
やはりバレてしまってる。何故だ? とにかくこうなった以上、しらばっくれても意味がない。俺はアルシュと顔を見合わせると、スピードアップの補助魔法をかけて猛然と駆け出した。
「クソッ、逃げやがった!」
「逃すかよっ!」
こんなこともあろうかと、俺たちは事前に下見して探しておいた絶好の場所に隠れる。ここはちょうど色んな場所から死角になってるところなんだ。
「どこだっ、どこへ行きやがった!?」
「畜生、逃げられたか……!」
「「……」」
慌ただしい足音が遠くなっていくのがわかる。どうやら行ったみたいだ。もしあいつらに手を出せば自分たちが犯人だと主張するようなもので、真犯人もそれが狙いだろう。
そもそも【支援術士】がどうやったら連続手首切断事件を起こせるのかとは思うが、冒険者にしてみたらそんな些細なことはどうでもよくて、【回復職】を捕まえるだけで多額の報酬が手に入るし、真犯人からしてみたら勝手に犯人として処理してくれるしで、どちらにとっても美味しいってことなんじゃないか。
今回の視察でわかったのは、真犯人は俺に対して想像を絶するほどの恨みがあるってことだ。だから直接殺さずじわじわと苦しめる手段を使ってくるし、一カ月以上経った今でもしつこく【なんでも屋】を見張ってて、少しでも怪しいと思った俺たちをあいつらに狙わせたんだろう。これじゃ、もうしばらく待っても厳しそうな気配だな……。
「ねえ、グレイス、やっぱり……ガゼルの仕業じゃ?」
「んー……違うと思うんだけどな。あいつなら俺が【なんでも屋】を離れただけでとりあえず満足しそうだし……」
「じゃあ、一体誰だっていうの? ここまでグレイスを恨んでる人なんてほかにいるわけないよ……」
「……」
アルシュはそう言うが、自分では気付かないうちに誰かに恨まれてるケースだってあるかもしれない。だとすると、【なんでも屋】をやってたときだろうか? 些細なことでもいいから思い出せ、思い出すんだ……。
「――あっ……」
「グレイス?」
「覚えがあるような気がする……」
「え、ええっ……?」
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