勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
第一章
第1話 支援術士、追放される
「グレイス、お前をパーティーから追放する」
「え……」
まさに青天の霹靂だった。今まで順調に狩りをしていたのに、俺は急に【勇者】ガゼルから呼び出されたかと思うと、彼の部屋でそう伝えられてしまったのだ。
「信じられないといった顔だな?」
「そりゃそうだ。一体何故……!?」
多少声が荒くなるのは仕方ない。あまりにも理不尽だからだ。
「【支援術士】としてのお前は中途半端すぎた。回復力がそんなにあるわけでもないし、バフ係としても上がり幅が少なく物足りない」
「いや、ちょっと待ってくれ」
それに関してはこっちにも言い分がある。
「確かに、回復力では【治癒術士】に及ばないし、またバフでも【補助術士】に負けてしまう。だが、【支援術士】は――」
「――わかってるって。【支援術士】はオールラウンダー。回復も補助もできるって言いたいんだろ。それが中途半端だってんだよ」
「それだけじゃない、【支援術士】は中途半端だからこそ、広い視野を持っている。全体を見据え、パーティーの悪い部分を見つけて修正するバランサーのような存在だ。己惚れるわけじゃないが要といってもいい。これがなくなったら、パーティーは……」
「ごちゃごちゃうっせえよ。とにかく、お前の代わりならもう入ったぜ。おい、出て来いよ」
「「はーい」」
「え……?」
後ろのドアが開き、爽やかな風とともに二人の少女がガゼルの元へ駆け寄っていった。
「俺の新しい仲間、【治癒術士】のシアと【補助術士】のメルだ」
「うふふー。そういうわけなので、グレイスさん、さよならですっ」
「グレイスさん、さよならなのー」
「……とまあ、こういうわけだ。グレイス、さぞかし惨めだろうが、精々頑張れよっ!」
「「「アハハッ!」」」
「……」
そうか、俺の代役が入ったならそれでいい。それも女の子なら華やかになるだろう。俺の代わりが務まるのかっていう不安もあるが。
15歳のときに【天啓】として【支援術士】というジョブを授かって以降、俺は憧れの【賢者】になりたかったのもあってやる気を失っていたが、ある日起こった悲劇を境にして自身のジョブについて研究に研究を重ねてきたからな。
俺を庇うようにしてモンスターの群れと戦い、相打ちで果てた親友を目の前にして何もできない悔しさを嫌というほど味わったから。
それからずっと回復術について研鑽してきたこともあって、パーティーは順調そのものだったのに……。なので俺はこの追放処分に納得がいってるわけじゃないが、【勇者】というジョブは世界でも希少なだけあってそれなりに権力があるし、逆らうより黙って従ったほうがいいだろう。
「最後に一言だけいいか?」
「ん? まあ幼馴染のよしみだ。聞いてやるから早く言え!」
「あいつのこと、守ってやってくれ。アルシュのこと……」
アルシュはガゼルと同じく俺の幼馴染で、よく遊んだ関係なんだ。彼女は今も変わらずドジっ子の【魔術士】だから、よくミスをしてしまうので心配だった。
「おう、任せろ。なあ、シア、メル?」
「任せろですー。あんっ……」
「任せてなのー。んんっ……」
「……」
ガゼルは新人の女の子たちといちゃつくのに夢中な様子。昔はこんなやつじゃなかったが、何故だか今じゃすっかり変わってしまった。最近は稼いだお金も独り占めしている。ただ、それでもアルシュを見放すことはないだろう。あいつだけは特別だから……。
◇◇◇
「えっ、嘘……」
「嘘なもんか。グレイスのやつ、俺たちのことが嫌になったんだってよ」
そこは【勇者】ガゼルの部屋、【魔術士】の少女アルシュが目を丸くしながら、先端が竜の形になった杖を落とした。
「もうこんなとこ、帰ってこねえってさ。だから……なっ? 楽しもうぜ――」
「――い、いやっ」
ガゼルが杖を拾い上げ、アルシュに渡しつつ彼女の腰布や胸当てに触るも、すぐに拒否されて苛立った顔で舌打ちする。
「ちっ……あんなやつのどこがいいんだよ。俺たちは見捨てられたんだぞ!?」
「そんなわけない……」
「はあ?」
「グレイスが見捨てるわけない……! あんなに普段から努力を怠らず、みんなに気を配るような優しい人なのに!」
「グレイスはよ、ドジのお前に嫌気がさしたんだってよ?」
「そ、そんな……」
「なあ、アルシュ。お前さえ受け入れてくれれば、俺はあいつを呼び戻しても――あ……」
しまったという顔を浮かべるガゼル。
「よ、呼び戻すって?」
「あ、いや、今のは気にするな」
「追い出したんでしょ……」
「……」
「やっぱりそうなんだ。すぐわかるもん。ガゼルのバカ! 昔はそんな人じゃなかったのに!」
「だ、だって、しょうがねえだろ。お前がグレイスのやつにのぼせて俺を受け入れてくれないのが悪い! お前さえ受け入れてくれたら……」
「だ、だめっ!」
「……」
アルシュがポニーテールを揺らしながら部屋を飛び出し、ガゼルはいかにも忌々し気に顔をしかめたが、まもなくにんまりと笑って自身のキザな前髪を撫でた。
(なあに、すぐに何もかも上手くいく。グレイスのやつがいなくなったら、あいつは俺に頼るしかねえんだからな。ククッ……)
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