第9話 商人の姪

「それでアンタ達はどう思う?」


 商人さんからちょっと離れて仲間内で相談。俺とサーラは声を揃えて言った。


「「へい、フレンズ集合」」

「……ぶん殴られたいの?」

「ごめんごめん。ティナが変なこと言うから」

「だって幼馴染集合じゃ長いでしょ」

「ではマイベストパーティー集合ではどうでしょうか?」

「それで話を戻すけど、この話アンタらはどう思う?」

「相手の素性を確認できないから難しいところだよね」

「無視ですか。そうですか」

「拗ねてないでアンタも考えなさいよ」

「彼が本物のシュウ商会のものかどうかはギルドと聖王教会から発行されてるはずの認証カードを見れば分かると思います」


 大陸中にその勢力を伸ばしているだけあって、ギルドと聖王教会に所属している人間は多い。中にはその権威を利用しようとして身分を偽る者も出てくる。そこでその手のなりすましを防ぐために両組織は本人であることを確認できる認証カードなるものを開発したんだ。問題はーー


「でもその認証カード、本人確認ができるって話は聞くけどさ、ぶっちゃけ、どうやったら確認できるわけ?」 


 確認できることは知れ渡ってもその使い方は案外知られていないことだ。


「魔術的な要素ですからね。私が確認できるのでしますが、彼が本物の商人でも人質を取られていた場合などこちらに害意を向けるパターンはいくらでもありますよ?」

「そりゃそうだけどさ、そこまで気にしてたら何もできなくない?」

「俺もティナの意見に賛成かな。警戒は必要だけど過程に過程を重ねてたらキリがないよ」

「確かにそうですね。それでは彼が本物のシュウ商会の方だった場合はどうしますか?」

「そりゃ、もちろん決まってるでしょ」


 ティナがやんちゃする前の悪い顔を浮かべるので、それを見た俺達も釣られてニヤリとしてしまう。


「だね」

「確かにそうですね」


 そして俺達はーー




「いや~助かったよ。ここから聖王国に救援を頼んでも来るまでに数日は掛かるだろうし、その間にダンジョンで凶悪に成長した魔物が出てくるんじゃないかって、ひやひやしてたんだ」

「何で聖王国なんですか? 火王国の軍隊かギルドに救援を頼むべきでは?」

「ん? もちろんそっちにも仲間を行かせたぞ。ただ見ての通り俺達の村はかなり辺鄙なところにあるからな。近頃は特に魔族が活発に活動しているから、部隊を派遣してくれるのにも時間がかかる場合が多いんだ。年食った身内がいる身としては待ってられんだろ?」

「ふん。私達が来たからにはもう心配いらないわよ。ショボいダンジョンなんてちゃちゃっと潰しちゃうんだから」

「おっ、頼もいしいねぇ。その調子で頼むぞお嬢ちゃん」


 ダダンダさんは商人だけあって話し易い人で、会話をしているとすぐダダンダさんの村についた。


「……誰かこっちに来るわよ」


 村に着くなり一人の女性がこちらに駆け寄ってきた。金色の髪が両側でくるくると巻かれている、ゴージャスな感じの美人さんだ。


「叔父様? こんなに早くお戻りになられてどうされましたの? それにそちらの方達は?」

「よう、リラザイア。頼りになる先生達を連れてきたぜ」

「先生って、その子達が?」

「何よ? 文句あるわけ?」


 胡乱げにこちらを見てくるリラザイアさんを、ティナがいつもの調子で睨みつける。


「文句と言いますか……随分お若いようですが、……失礼。お年を聞いてもよろしいかしら?」

「「「十八(です)」」」

「叔父様! 何故散々私を止めた後に連れてくるのがこんな若い子達なのですか?」

「若い子たちってお前もまだ二十二だろ。俺から見たらどっちも変わらんぞ」

「ちょっとアンタ達。さっきから人をガキ扱いして、……私達に喧嘩売ってるわけ?」


 ティナが瞳をスッと細める。


「はっはっは。悪い悪い。でもお嬢ちゃんが若いのは本当だろ? 俺は年じゃなくて腕を見込んでお嬢ちゃん、いやティナ先生を連れて来たんだ。姪の無礼分報酬は弾むから笑って許しちゃくれないか?」

「ティ、ティナ……先生? ふ、ふん。そこまで言うなら仕方ないわね」

「流石は先生、腕が立つ上に寛大と来てる。まったくうちの姪も見習ってほしいものだね」

「なっ!? 何ですのそれは? 私がこの子達に劣っているとでも言うのですの? 信じられない侮辱ですわ。そもそも最初から叔父様が私にダンジョン潰しを依頼していればーー」

「も、もう。よしなさいよ。そんなに褒めても何も出ないわよ?」

「いやいや、俺もこの道四十年でいろんな人間を見てきたがね、ティナ先生のように若い、強い、美しいを兼ね備えた奴なんて大陸中探して五人いたら多いくらいだよ。凄いと思う反面、ティナ先生にメロメロになった男が妙な気を起こさないかオジサンは心配だね」

「そ、そんな、アロスが私にメロメロだなんて……。さ、さっきからちょっと本当のこと言いすぎじゃない?」


 顔を赤らめたティナが蛸みたいに体をくねらせる。


「……ねぇ、サーラ提案があるんだけどさ」

「奇遇ですね、私からもあります」

「「ティナにだけはお金の管理はさせないことにしよう(しましょう)」」


 俺とサーラは商人さんが壺を買えと言ったら仕方ないわねの一言で財布ごと渡しそうな幼馴染をしばらくの間暖かく見守っった。するとーー


「私を無視するとは良い度胸ですわ!」


 幼馴染じゃない方の美人さんが突然怒り出したんだ。

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