Scenario.6
寮に帰り、俺は休む間も無く机に向かった。引き出しを開けて、神の杖を取り出す。
まだ確信は持てないが、おそらくこの杖の力は本物だ。
書いたことが現実化する神の杖。これがあれば、俺は――神にさえなれる。
――まずは、この杖の力をもう少しだけ調べてみよう。
1日もあれば、この杖が本当に神の本なのか調べられる。
王女への回答は、杖の力を試してみてからでも遅くないはずだ。
「もっと他のルールがあるはず……」
俺はそう思いなら、杖を見つめる。すると、それに呼応するように、杖は再び宙を舞い、文字を綴る。
・シナリオに記載できる時刻は、杖で記載した日時から12時間後以降、二週間以内である。その範囲でなければ、シナリオは無効である。
・明らかに実現が不可能である内容のシナリオは無効になる。
・使用者は、1日ごとに見開き1ページを使用することができる。
俺は、それを参考に、杖に次のようなシナリオを書いた。
4/8 8:00 自室
リョウ・アトラス「俺は、実は生きていたんだ」
リョウ・アトラスは俺の死んだ父親だ。シナリオに父親を登場させたのは”実現が不可能”の範囲を知るためだ。
流石に、死人が生き返るなんて思っちゃいないが、念のために確認しておきたい。
そして、続いて次のようなものも書く。
4/8 8:25 教室
「今日、なんかオシャレだね」
「なんて言うか、着こなしがさ」
これで、杖の力が本物かをもう一度確かめる。明日は俺はいつも通り制服のローブを羽織っていく予定だ。当然“オシャレ”という評価はありえないのだが、もしそれでも「オシャレだね」と言われれば、それは杖の力としか考えられないだろう。
また、他に二つのことを調べる意味がある。
まず一つは、台詞を誰が言うのか、と言うのを省略しても、有効なのかを調べる意味だ。
そして二つ目に、杖が自分の行動にどんな影響を及ぼすのかも調べたかった。今の所、明日はローブを着ていく予定だが、ローブ姿でオシャレと言われるのは無理があるので、杖が無理やり俺を“オシャレな服装”で学校に行かせるようなことがあるのかも調べられる。
4/8 クイーンズカレッジ校舎内
マリア「あなたのこと、好きだった」
三つ目は、正直、少し欲望混じりの記載だった。マリアというのは、去年のクラスメイトだ。かなりの美人で、父親がナイトの称号を持つ実業家という、かなり“お高め”の人だ。そして、ちゃんと付き合っている男がいる。その彼氏は美形で、金持ちで、魔法の腕前も一流で、性格もいいという絵に描いたような完璧人間だ。一方、俺とマリアはクラスが同じという以外に接点がなく、喋ったこともあまりない。なので、俺が彼女に告白される要素は万に一つもない。そんな状況で、もし仮にシナリオの通りになったら、杖かなりの力があると言えるだろう。
……さぁ、これでどうなるか。
果たして、杖の力は本物なのか。
それとも、今日の出来事は全て偶然で、杖とは一切関係のないことだったのか。
――明日その答えは出るだろう。
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