久々のビーチ
「これ…自然由来のセルリウムじゃないわね」
「あぁ、頭から被ってしまったが、別に体とか気持ちとかに影響はないみたいだ」
カコ博士一行は、セルリアンが爆発四散して撒き散らした液体を解析していた。
元々このセルリアンの特徴からして火山から生まれたと考えていたのだが、なんと海に潜る能力を持っていた事から、博士が駆り出されたのだ。
「純粋なセルリウムと違って、ホラ、空気中で昇華しないわ…それに見て」
セルリウムのからは、ハクトウワシのサンドスター成分や、この間食べられかけたフレンズのサンドスター成分が検出されていた。
「普通であれば、輝きとサンドスターを吸い尽くすだけだから、フレンズのサンドスターから純粋なサンドスターに還元して取り込むわ」
「異様だな…自然成分でなく、フレンズのサンドスター成分が検出されるような仕組み…」
セルリアンを使って、フレンズから何らかの資料を集めているとでも言うのだろうか。
底知れない不気味さが車内に溢れた。
「とりあえず、パークに連絡しましょう。反社会とかの組織が絡んできたら大変だわ」
「そもそも、探検隊じゃなくて俺たち特殊部隊が派遣されるってのが異常だよな…何でなんですか?」
「ビャッコ様がパークの上層に警告しに来たのよ」
人間たちの間でどうにかしろってことなのか?
神さまの考えることはよく分からない。
パシャパシャと顔を洗う。
都会のあの水道水よりずっと美味しい水が、頬を伝ううちにぬるくなって滴り落ちる。
拓海は寝癖を直すより前に、顔から洗うタイプだ。
パッパッと手から水滴を払い落とし、タオルで顔を拭く。柔軟剤の匂い。
『例えばタクミくんがいつも一緒にいるペンギンのフレンズとか』
昨日、ヒロミが言っていた言葉を思い出す。
風呂のお湯の中でした、あのなんとも言えない独特な呼吸。肺がぬるま湯で満たされる感覚。
どうしても寝ぼけて見た夢とは思えない。
スマホのバイブレータが、マサキからのラインを知らせる。
「先輩、今日海行きませんか?せっかくの夏休みですし、マコさんの水着も見れますよ🙃🙃🙃」
前日に知らせろよ…いきなりすぎだろ…とひとり呟くが、タクミの手は「行こう」とフリックで入力する。
まだ朝の5時、朝日がまだ登っていない頃だ。
トランクを約二週間ぶりに開いて、遊園地のお土産のビニール袋の中から海パンを引き摺り出した。
「ヒャッホーッ!」
走り幅跳びで海にマサキが飛び込み、白い泡が立つ。流石体育会系、陽キャのノリだ。
「アイツ筋肉やばくないすか?いま何メートル飛びました?」
確かにマサキの腹筋はバキバキに割れてる。
それに比べて僕。
多分全人類でケンカトーナメントを開いたら下の中くらいの成績しか取れなそうな体だ。比べる対象が意味わからんかもしれんけど。
「肋骨だいじょーぶなのかー?」
「全然痛くないっすー!」
少し深くなったあたりまでマサキは泳いで行く。
ジャパリパーク周辺は沖の方までずーっと生命があふれている。
エメラルドグリーンの海岸がどこまでも続いて、その奥にはサンゴ礁が広がっている。
ここに来る時も、フェリーを避けて跳ねるトビウオが見えたのを覚えている。
「おーい!」
マコさんとフレンズの二人が、『海の家 ガジュマル』のウッドデッキに立っている。
マコさんが大きくぶんぶんと手を振る。
揺れる水色の水着と綺麗な脇に視線を奪われる。
その横で浮き輪を抱えるハクトウワシと、恥ずかしそうに自分の腕を掴んでいるホッキョクギツネが立っていた。
マコさんとホッキョクギツネが階段で降りてくる。
ハクトウワシはジャンプで柵を飛び越えて砂浜に着地した。濃い緑色のラッシュガードがはためく。
周りの観光客が「アレ、ハクトウワシのフレンズじゃね?」「すごい可愛くない?」「あのキツネっぽいフレンズの子の肌凄く綺麗」「真ん中の人もフレンズ?モデルみたいなんだけど」とどよめいている。
ここは前回行ったビーチとは違う、観光客用の海岸だ。マサキを襲ったセルリアンの件は討伐完了ということで、ビーチがまた開放されていた。
「いやー男子はいいねぇ、下履いてくるだけだから着替えるの楽でしょ?私も下だけ履いて泳げたらいいのに」
マコさんが変なことを言うのでちょっと想像しかけたが、ここで聖剣がアウェイキンするとかなりヤバイので頑張って止めた。
「こんな格好ハレンチよ…恥ずかしいわ」とホッキョクギツネがマコさんに囁く。
彼女は真っ白なラッシュガードを上に着ていた。
水着の腰のフリルが風で少し揺れている。
「Feel so good!いい風ね!」
「シンヤー!お前もこっち来いよー!」
シンヤも海に向かってかけて行った。
僕は海が嫌い…ではなくなったが、まだそんなに普通に泳げるほどではないのでちょっと様子見しようと思うんだ()
うーんやっぱりクラゲは嫌だし…どんな感覚だったかも忘れたけど不気味だし怖いからなぁ…
マコさんの水着とかいうパワーワードにつられてのこのこ出てきたが…というかその前から水着を用意して海に行く気満々でいたが、いざとなると「あぁー…ファストパス取ったから乗らないとだけど、並んでてここに来て、ジェットコースターめっちゃ怖いから乗りたくねぇ…」状態に陥ってしまった。
いやでもここで待つのもどうなんだろうか?
「うわ、見てよあそこにいる男の人。フレンズの飼育員?水着見て鼻伸ばしてんじゃん。キッモ」
とか周りの人に言われるんじゃないか?という考え過ぎの不安が頭の中でぐーるぐる。
「ホラ、二人とも行っておいで!」
マコさんがそそのかすと、ハクトウワシがホッキョクギツネの手を握って走り出す。
ホッキョクギツネは、恐る恐る波打ち際で海水に触れていたが、次第に奥へと進んでいった。
最初、シンヤが会った時はガチガチの潔癖症で、もはや裸足で砂浜を歩くなんて想像も出来なかったのに…シンヤが与えた影響に、素直に感動する。
「…泳がないの?」
海を見ている時に話しかけられたので少しドキッっとする。
麦わら帽子を被ったマコさんが大きな傘を危なっかしげに運んできていた。
「あっ!ごめんなさい!僕持ちます!」
ふぃー…と言いながら、マコさんが重そうに抱えていた傘を僕に預ける。
砂浜に突き刺して、留め具をつけて、黄色と白のツートンカラーの傘を開いた。
「ほっ」と言いながらマコさんがいきなりこちらにさんぴん茶をサーブする。
「あ、ありがとうございます」
マコさんはニコッと笑い、パラソルの中に入ってあぐらをかくと、パリパリとお茶のボトルを開けて飲んだ。
「熱いからタクミくんも入って入って!」
促されるままに横に行って座る。
今年はフルルちゃんがいないんだった。
でも、マコさんがいる。
さざ波の音と、いつもより少し早く動く雲が美しかった。
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