第7話

でもやっぱり僕はサチがいないのが寂しくて、いつも夜になったら電話した。


「ねぇ、サチ~、いつ帰ってくんの?」


「ん~当分帰れないかな。姉ちゃん忙しいのよ。ごめんね。」


「僕、姉ちゃんとこに居候しようかなぁ。」


サチはすぐに笑う。サチの笑い声のせいで、受話器の向こう側にある何かがぼくの耳のそばでカタカタ震えている。耳がくすぐったくなる。


「居候?そんな難しい言葉どこで覚えたの?」


「母さんがいっつも見てるドラマでやってた。」


「ませやがって。」


「僕はもう大人だよ・・・」 


ゴンっ。ガチャン。


いつもサチとの電話を終わらせるのは、父さんだった。いつもげんこつが飛んできて、電話が切られる。そして父さんも切れている。「長い」の一言。


父さんはそんなに口数が多い人ではなかった。少なくとも僕の前ではそうだった。いつも一言二言で僕を諭して去っていく父さん。言葉ではない何かで僕を圧倒する。上手く説明できないけど、父さんは言葉以外の、雰囲気とか空気の重さとか距離感とか自分の体に対する力の入れ方とか背中から発しているオーラとか、目では見えないようなものを微妙に調節して僕に何かを伝えていた。僕はちゃんと受け取っていた。でもそれらが何なのかまだ上手く話せない。だから思い出話の続きをする。


父さんにいつも途中で電話を切られたとしても、サチと話をすると気持ちがすぅっとしていい気持ちになる。だから毎日電話をかけたくなる。けど父さんに殴られるから控えめにしていた。僕は大人だったから。


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