第136話 リリアとリント
「で、なんでこうなるわけ」
あからさまに不機嫌な表情でリリアは呟く。
「あはは、まぁそう怒んなって。ご両親もあの友達達もお前のことが心配だっただけだろ」
「だからってまさか本当に認めるなんて」
結局の所、ルーク達は同行を申し出たリントの提案を受け入れたのだ。それはまさしく魔物の跋扈する王都の中を愛する娘一人で行かせるわけにはいかないという親心からだ。もちろんそれはリリアも理解している。しかし理解しているからと言って納得できるわけではない。
「別に私は一人でも大丈夫なのに」
「お前はそう思えても、こんな状況じゃ何があるかわからないだろ。心配するのも無理ないって」
「何よりあなたが一緒って言うのが嫌」
「こりゃ手厳しい。そんな嫌われるようなことした覚えはないんだけどな」
「別にされてないもの」
「じゃあなんで嫌なんだよ」
「んー、なんとなく? 直感的に? つまり生理的に無理」
「それ酷くねぇか?! さすがに傷つくぞ!」
そうは言いつつも、リリアがリントのことを避けようとするのには理由があった。それはリントが地球の人間であろうと思っているからだ。それもリリアのような転生したタイプではなく、転移していきたタイプの。
自分のような存在がいたのだから転移してくるような人がいても不思議ではない。しかし、それが自分に関わって来るとなれば話は別だ。リリアは前世を無かったことにしたいわけではないが、今さら思い返そうとも思っていない。
ハルトのことが大事だという思いともう一つ、郷愁の念に駆られることが恐ろしいからだ。
(だからできれば地球を思い出させるコイツとは距離を取りたいのに。冷たくしても堪えた気配もないし。こいつ面倒なタイプだ)
こうしてリリアが冷たくすれば大抵の男は引き下がった。それなのにリントは口では傷ついたと言いつつも、その瞳にさしたる落胆の感情は見えない。つまりそれほど気にしていないということだ。
「そう言われるとどうしようもねぇけどさ。まぁ、もしかしたらそのうち慣れるかもしれねぇし、とりあえず一緒に行こうぜ」
「結局そういう……鋼のハートってやつね」
「ん? なんか言ったか?」
「別に。こうして問答してる時間も勿体ないから先を急ぎましょうって言っただけ」
「おう。そうだな。それになんとなくだけど、妹もそこに居る気がするんだよなぁ。兄の直感ってやつか?」
「やっぱりシスコンじゃない」
「だからシスコンじゃねぇ!」
「あら残念。もしシスコンだったなら、ブラコンの私との接点を見出して少しは仲良くしようと思えたかもしれないのに」
「いやだからって認めねぇからな。あと、お前自身にも答えてもらいたいことがあるんだ。全部終わったら答えてもうらうぞ」
「さ、行きましょうか」
「はぐらかすな!」
リリアがリントと行動を共にしたくない理由その二だ。不用意な発言をしたせいで、リントはリリアが地球のことを知っているのではと疑っている節がある。それは事実ではあるのだが、できれば隠しておきたいことではあった。秘密とはどこから漏れるかわからないのだから。
先導して歩き出したリリアは王城目指して走り出す。リントもまた文句を言いながらその後に続いた。
リリアにとっては認めがたいことではあったが、リントは魔法使いとして非常に優秀だった。スマホを使った素早い魔法の展開。複数の属性を一度に使う能力。しかも威力まで上々と来た。
リリアでも真正面から戦えば苦戦するかもしれないと思うほどだった。そして何より、リントは動きを合わせるのが上手かった。リリアが戦う際に邪魔になる魔物を的確に見極め排除する。言うのは簡単だが、難しいことをリントはあっさりとやってのけていたのだ。
(悔しいけどおかげでだいぶ戦いやすい。死角を気にしなくていいからその分前の敵に集中できる。でも……つまりリントは前衛の戦い方を熟知してるってことでもある。体の動かし方といい……もしかして何か体術をやってたのかな)
リリアの死角を読めるということは、リリアがどこを見ているかわかる。すなわち、前衛が戦う時にどこを注意して見ているかを理解できているということでもある。一朝一夕で身に着くものではない。実際に前衛として戦ったことがあるものでなければわからないようなものなのだ。
(……ま、いっか。使えるなら使えるでいい。おかげで思ったより速いペースで動けてるし)
そうして魔物を蹴散らしつつ王城に向かっていたその時だった。突然大きな音と共に目の前の建物が倒壊し、そこから灰色の巨大な塊が現れる。二階建ての家ほどの大きさだ。その体はどこかプルプルとしており柔らかそうだった。
大きさだけは規格外だが、その魔物は非常に有名だった。
「え……スライム?」
RPGで大定番の序盤の敵スライム。しかしリリア達の目の前に現れたスライムは明らかに他のスライムとは一線を画す存在感を放っていた。
「いや……あれはただのスライムじゃないぞ」
リントがスマホのカメラをスライムに向けて言う。
「目につくもの全てを食らい尽くして吸収する化け物スライム——」
冷や汗を流しながらリントはその名を告げる。
「アブソーブスライムだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます