第7話


アパートを出て車で自宅の方向へ向かっていた。 あー、でもやべぇな。 どうすっか……



会社にも引っ越しするって言っちまったしなぁ。 まさか2日目でこうなるなんて考えると元から上手く行くはずなかったな。



それもこれも親父があんなとこ俺に紹介するからだ。 ムカつくから帰る前に電話してやろうと思い近くにあったコンビニへ停まりポケットを触ると携帯がない……



嘘だろ? 携帯アパートに置いてきたままだ。 あんな啖呵切った手前「忘れものしちゃった、テヘッ」なんて俺がやってもキモいだけだろうし。



いやいや、携帯だけじゃないぞ、仕事の服とかもアパートだわ。 しかも明日から仕事だぞ…… 時計を見ると午後2時過ぎ。 観念して戻るには速過ぎるしなんか恥ずかしい。



仕方がないので俺は一旦自宅に戻った。



「あら清人、どうしたのよ? もう引っ越したと思ってたわ」

「…… いやぁ、部屋に忘れ物」



そう言って自分の部屋に戻る。 ベッドにゴロンと寝転がりしみじみ思う。 やはり我が家の自分の部屋はいい、適度な広さといい心の底から安らげる。



あのアパートもどきとは大違いだ。 あ、ゲームとか持ってくの忘れたな、これもついでに持って行こう。 ってなんだよ? 戻る気か?



まぁ戻らないと仕事にも行けないし戻るようなんだが。 あの神崎の顔を見たくねぇな、いくらなんでもビンタはねぇだろビンタは。



クソッ! 眠くなってきたから一旦寝よう。 



目が覚めると母さんが俺の部屋に居た。 何してたんだっけ?



「ほら! 起きなさい! あんたいつまで寝てる気なの?」

「あ、あれ!? ここは俺の部屋だ!」

「呆れた何寝ぼけてるのよ。 当たり前じゃない、明日から仕事でしょ?」

「今何時だ?」

「夜の8時過ぎたとこよ。 ご飯呼んでも来ない思ったら」

「いっけね! 俺もう行かないと!」



小一時間ほど寝るつもりだったのにガッツリと寝てしまった。 大変だ、もう戻るのが気不味いとか言ってる場合じゃない!



車に乗ってアパートへ向かってる途中俺は急ブレーキを踏んだ。



な、なんだあれ!? 変死体か? 



道路の脇に人が倒れていた。 アパート付近は結構田舎っぽくて人通り少ないからな……



車を降りて恐る恐る近付く。 なんか怖ぇ…… 幽霊とかじゃないよな?



その倒れている人へと近付き声を掛けようとした途端足を掴まれた。 あまりの恐怖に腰が抜けそうになり尻餅をついた。



「う、うわああッ!!」

「た、助けて……」

「え? ひ、日向か!?」

「清人…… ? 清人! やっと見つけた!」



日向は俺を見てガバッと起き上がった。 テンションがいつもより若干高い。



「お前こんなとこで倒れて何してんの? 女子高生がこんな道端で倒れてたらめちゃくちゃ危ないよな?」

「だって…… 探してたから。 みんな清人の事探してるよ?」

「は!? なんで?」

「なんでって…… 清人があたしと彩が険悪になりそうだったのを莉亜で誤魔化したからだよ。 莉亜にその事言ったら真っ青になって飛び出してった」

「それっていつから?」

「清人が出てって15分くらい」

「それから…… ずっと?」

「うん、あたしはずっと探してたから莉亜と彩もそうだと思う」



なんてこった…… そしたら7時間以上も探してたのか? 車なんだからお前らが見つけられるわけないだろうに。



「とりあえず車乗れ、神崎と篠原探すぞ」

「うん」



日向を車に乗せ2人を探しながら走っていると……



「なんで?」

「え?」

「なんであの時わざわざあんな事言ったの? あたしと彩の喧嘩なんて清人にとってはどうでも良かったから放っておけば良かったのに」



今日の日向はよく喋るな……



「よくわかんねぇよ。 でも3人で今までは問題なく過ごせてきたんだろ?」

「まぁ…… うん」

「それが神崎の言う通り俺が来たせいで何か変わったんなら認めたくないけどムカつくけど神崎の言う通りかもしれない。 まぁ俺も言い方悪かったし誤解を招くような事言って神崎を怒らせたのも事実だし、今みたいに冷静になって考えたら俺も悪かったよ、お前みたいな面倒くさがり屋に行き倒れるまで探させたりな」

「…… 本当。 大変だった」

「ごめんな。 それと探してくれてありがとな」



思わずポンと日向の頭の上に手を乗せると日向は若干ビクッとしたのでサッと手を離す。



するとボスッと日向に横腹を軽く叩かれた。 チラッと見ると日向は俯いたまま俺の脇腹を何度か叩いた。



「悪かったって」

「こっちこそごめん。 彩も謝らなきゃって言ってた」

「そっか。 俺も謝らないとな」

「うん、 ふふッ」

「なんだよ?」

「なんでもない」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る