21日目 予感

 彼曰く、今日はなんだかいつもと違う予感がする。


 ***


 しばらく行けていなかったスタバへGO。

 先週は仕事の佳境で行こうという気がなかなかわかなかった、まあ仕方ない。

 GWは毎日のように行っていたからその反動かもしれん。正直店の人からしても不思議だっただろう。


「あの人今日も来てるやん、ほかにすることないんかな……?」


 余計なお世話や、何してもええやんけ。ただの客のすること、好きにさせてーな。


 お客の顔触れは毎日違うけれど、店員さんはだいたい同じ。向こうからすればいつも来る人間は分かるのかもしれないけれど、それはこちらも同じ。


「あの人今日も接客しとる、他の仕事させてもらえんのかな?」


 そう思ってないとも限らないのですよ、気を付けや。


 ――ぜったい誰も客に対してそこまで執着してないと思うけども


 エレベーターから下りて席を探しながら思っていましたが、それとは別にちょっと思うことがありました。


 ――やっぱり今日人多いな


 行きつけのスタバは商業ビル、パルコの中に入っていて他店よりも早めに回転しています。他にも1階部分にカフェがあってガラス張りの窓から中が見えたんですが、その時点で予感はありました。

 朝10時前だというのに、週末土曜でそれほど天気がよろしくない日だというのに、そっちのカフェが満席だったのです。朝活が流行ってるんですかね?


 1階が満席ならスタバもそうなのでは、そんな私の予感は半分くらい当たりました。朝活マンたちに人気の窓際、7つしかない高めテーブル席は空きがなく数少ないソファ席も人がずらり。一列に並んだ丸テーブル席と、中央に鎮座する2つの大テーブル席くらい。

 そのほかの候補は当然のように誰かが座っていたので、私の選択肢は必然大テーブルに絞られます。丸テーブルでもいいんですけど、パソコン置いたりノート置いたり、スペース必要なときには不便なのでね。


 正直この席はあまり好きじゃないんです。なぜなら席が硬いから。めちゃカタ。伊賀の堅焼きせんべいと同じくらいの硬さなので、長時間作業してるとお尻つぶれちゃいます。困ってしまう。

 でも今日はそんなに長く作業するつもりではないので目をつぶっておきます。アイスドリンクを買って、さて作業しようとパソコンを立ち上げます。


 いつものように始めようとする私でしたが、この瞬間まで忘れていました。

 今日の私の予感は冴えていると。


 なにからやろうかな、とりあえず日記かなと、ネットにつなげながら考えていると隣に女性が一人。結構な音量の声で話しながらドカッと座りました。


 ――誰と話してんねん


 と思いながら横目で観察してみると、さらに横にベビーカー。まだ喃語しか話せない子供つきでした。


 ――あー、まずい。まずいぞこれは


 思わずため息が漏れてしまいました。隣に聞かれてないかと焦りましたが、女性は子供に目を向けて話しかけるので精いっぱいらしく気にしていません。


 子供に罪はありませんが、所かまわず泣き叫ぶ子供は悩みの種でした。作業したくてカフェに来てるのに、その作業の邪魔になる要素ですから。

 繰り返しますが子供に罪はありません、普段ならほほえましく感じたことでしょう。

 でも今日の子供はよくなかった。どちらかと言えば母親の方ですが。


「ハイ笑ってー、こっち向いてー。なっちゃん、ホラ!」


 すっごい写真撮りたがるんですよ、この人。子供の方は目の前に置かれたドーナツに興味津々で母親を向こうともしないし、なんべんも子供の手を机に置かせては写真と撮っての繰り返し。たぶん15分くらいやってました。


 ――ここは写真館じゃないんだけども


 もしくはコスプレ会場か。自分の子供だからってどこでも自由に撮影していいってものでもないと思いますよ。スタジオ代払いました?


 そこまで過激に反抗するつもりもないですけど、少なくとも周りのお客がいるところで結構うるさい声を出すのはどうかと思う。あいにくとピークの時間で、店員さんが来るのが遅れてしまったのが残念なところ。

 いっそ自分から言い出してもよかったかもしれない。


 おかげでやりたいと思っていたことの半分もできないまま、次の予定のために店を出ました。


 子供に罪はない、子供かわいさに親にも責任はないとは限らないだろってことを言いたかったのです。

 そんな予感がした、っていう日でした。

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