3日目 おきまりの

彼曰く、これがいつも私が頼むやつ。


 ***


カフェでも居酒屋でも、何かを注文して食べようと思った時に頼むものってたいてい決まっている。

カフェならコーヒーのトールサイズ。居酒屋なら生ジョッキ。

自分なりの準備をして、ご飯というものは食べたい、楽しみたい。

カラオケで最初に歌うのは『残酷な天使のテーゼ』、みたいな感じ。

朝起きてまずカーテンあけて歯を磨いて水を飲む感覚でやってる。

私的ルーティンと言っても過言ではないと思う。


大学生になって、いろんなことに自己責任という言葉が伴うようになった。

自分でいろんなことを決めるようになったのはそのころだと思う。

割と過保護な家庭で育ったと自分の中では思っているから、親が定めてくれたレールに従えばよかった高校までのぬるま湯生活と違い、ここ東京はまるで魔境。

私を手籠めにしようと戦略を練る人間もいれば、興味なさげに「とりあえずつぶす?」と初見殺しも甚だしい洗礼をくらわしてくる年長者たちの群れが襲ってくる。

すべてに身を任せて、流れ流れる思考のままだったら、私はきっと生きていないだろう。

お酒弱いし、頭も悪いし、すぐ騙されるあたりにその危険性がたっぷりある。

運がよかったのだけが救いかな、幸い目立つような人生ではなかったから。

そのおかげで周囲を観察する機会に恵まれた。

あ~あの人は今機嫌悪そうだな、でもこの仕事は早めに片付けてしまいたい、そういえばあの先輩はあの人と気兼ねなく話せたはず、私たちの上司でもあるし変に気まずくはならんやろ、上司が忙しそうだったらタイミングを見計らうしかない、まあ今週中であれば大丈夫だし、他の仕事片付けてから様子を見よう・・・。

人の顔色ばかり窺っているような気もするが、自分なりの思考を持つようになった。

杓子定規でこう生きるべきと思考が凝り固まっていた高校時代とは大きな違いだ。

そのかいあって、ストレスフリーな働き方ができている。

同僚や後輩にはよく「ストレスなさそうでうらやましい」なんて言われるけれど、逆にそこまでストレス溜める必要あるのかい?と聞き返したいものだ。

ため込みすぎていらないゴミなら、早いうちに焼却処分したほうが生きやすいだろうに。

レールにめっちゃデカいガムが張り付いていたら、あわや脱線死亡事故に発展することだってあるんだから、多分。

そういうのに巻き込まれないように生きているからか、はたまた単純に運がいいだけなのかはわからないけど、とにかくストレスは溜めないに限る。

上京後よりも、実家にいた方がストレスフルな生活だった。だから今はとてもスッキリ、自分次第とはいえ生まれ変わった気持ちで毎日を楽しく過ごしている。

人生の中でもリセットされる機会はあるんだなぁ。


リセットと言えば、ほかにも人生のルーティンみたいなものが少し変わってきた。

カフェ「キャラメルマキアート、グランデサイズで」

居酒屋「ビール、瓶で」

好きなものを細く、長く。自分のペースで楽しむために。

大人になった、というやつかもしれない。

願わくばこれが貧乏精神の現れではないことを。

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