16日目 ワインバー
彼曰く、華やかな酸味とおおらかで柔らかい苦みのある、おばあちゃんの味。
***
大人のたしなみと言えば何だろうか。
タバコ、車、酒、ゴルフ、読書、映画、釣り―――。
時間のかかるもの、お金のかかる遊び、誰かとやるもよし、一人でやるもよし。
すべてが自由で、ルールはない。
初めてのことも、好きなことも、やりたいようにやっていい。
つまるところ、”休日の趣味”というのがそれにあたる。
日々の労働の疲れを忘れさせ、新しい刺激をもたらしてくれる。
リフレッシュ、新鮮さ、ちょっとした困難と壁を乗り越えた時の快感。
始めるきっかけはたくさんあるけれど、何よりも大事なのは自分が楽しむこと。
それ以外に理由はいらない。
人生において好きなことに使える時間というのは、大人になればなるほど少なくなってくる。
だからこそ憩いの時間、自分のための自由な時間の存在がとても貴重だと、社会に出た今だからこそわかる。
「勉強以外のことももっとやっておいてね、将来に楽しめることが増えるから」
子供のころの自分に声を大にして言ってやりたい。
君はまだ大人の楽しみを知らないだけだ
趣味がないわけではない。
月に1冊は小説を読めるように時間を作っているし、気になる映画以外におすすめされた映画も見るようにしている。
でも正直、読書や映画鑑賞は子供でもできる趣味初心者が選ぶような休日活動だと思う。
そこで思いついたのがワインバー。
ぶっちゃけお酒は強くない。
ほろよい1、2本で顔が赤く火照り、ビール5杯を超えると足元がふらつく。
日本酒なんてお猪口1杯で願い下げしたいくらい。
大学生の飲み会というものの楽しさがわからなかった私には、お酒は自分のペースで楽しむものという不文律が最初からできてしまっていた。
でも誰かとお酒を飲みながら、ご飯を食べ、話で盛り上がる楽しさは、大学時代にも覚えがある。
モラトリアムを楽しんでいる時期の私にはワインバーなんて高尚な場所に行くには勇気が足りなかった。
しかし今、人生4分の1を超え、いい大人になった。
今ならワインバーに行っても見劣りしないし、美味しいご飯にありつけるし、ご飯に合うワインを楽しむこともできる。
大人の階段をまた一歩上ることができるのだ。
学芸大学駅、学生街と商店街が同居して活気に満ちた駅前。
高田馬場や日吉、吉祥寺や荻窪のような、若さとちょっとした汚さを感じるガヤガヤ感。
こういうところに来るとなんだか「帰ってきたな~」という気持ちになるのは私だけだろうか。
駅前の喧騒を離れ、裏路地に入っていく。
その一角にある小さなワインバー『あつあつリ・カーリカ』が今日の場所。
カウンターのみで、イス席は予約でいっぱいとのことだが、立ち呑みカウンターも6人ほどのキャパ。
目の前のグリルやコンロで料理が作られていく様子を見ることができるのも大人な楽しみだ。
「やっぱり1杯目は泡かな~」
「そうね、新年会だしね」
コイ・ディ・フラヴィオ・レスターニのキメラ・ビアンコ・フリザンテ。
軽い飲み口で苦みはそこまでない、フルーティな味わいとすっきりしたのど越しで、お酒強くないのにグイグイ飲み進めてしまいそうな飲みやすさ。
何よりすっと鼻に伝わってくるほど香り高い。
1杯目から「アタリを引いたな~」と思わせてくるスタートで、そのまま料理も楽しむ。
氷見の寒ブリ、アジの練り物と、和のテイストを感じるイタリア一品料理をちょいちょいとつまみながら、ワインをいただく。
カキと菊芋のグラタンが来るころにはサッサイアのスペシャルエディション。
ちょっと合わないかもと危惧したけれど、さっぱりとした後味がグラタンのこってり感をいい具合に忘れさせてくれた。
そして最後にロゼのレ・ジャルダン・アン・シャンタン マミイ。
「ファンキーなおばあちゃんが教えてくれた味」との触れ込みで、結構香り強め。
ひと回しして香りをかいだ瞬間にわかる酸味の強さとフルーツの甘味。
瓶ラベルで中指立ててバラを加えているおばあちゃんの性格そのまま反映したような力強い味わいで、意外にもハマってしまった。
〆に頼んだ王様シメジとカラスミのスパゲッティとケンカしてしまいそうだったけど、個人的には嫌いじゃない組み合わせ。
初めてのワインバーの思い出にしっかりと爪痕を残してくれた。
店を出て感じる夜風の涼しさと、一抹の寂しさ。
でもどこか心地よい時間の過ぎ方。
「私の求めてた大人の過ごし方だ・・・」
ちょっと感傷に浸ってしまうくらいに気持ちのいい酔い方をした。
新しい楽しみを求めていた私としては嬉しい。
また誰かとワインバーで楽しい夜を過ごしたいと、大人を感じる私でした。
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